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お正月6
訳がわからないうちに、両親と双子の弟の先輩が親交を深めていた事実に奈智(なち)は呆然と彼らを眺めていた。あれよあれよという間に、いつの間にか帰宅した弟が参戦し、賑やかなうちにお開きとなった。
「──ち、なーちぃ? どーしたの?」
「え……うわっ!?」
気づけば沙和(さわ)の下敷きにされて奈智は呻いた。
「……重いよ」
「重くないよー」
「いい加減にしろ」
溜め息をつきつつ、大きな彼は特別苦も無さそうに双子の弟を奈智の上から退かす。
「だってぇー寒いじゃん」
そんな事でヒトを潰さないで下さい。
半眼で見る先の沙和は自分よりもフカフカで暖かそうなマフラーに手袋、耳当てをして確かカイロもいくつか懐に入っているハズだ。それほど遅い時間でもないはずなのだが、双子の弟の先の暮れかけている日に一日の短さを知らされる。
「あ! ねぇー、あそこに神社あるー。オレまだお参り行ってないー」
散々自宅で寝正月をしていたクセに何を言っているのだと頭を掠めるが、奈智は賢明にも発言しなかった。したら最後、彼らの濃厚な出来事を語られること間違いなし。生憎とそのような好奇心と気力はどこを探しても持ち合わせていない。
「奈智はどうする?」
「あ、え?」
意味をつかめず、長身を見上げる。
「ちょっとー、オレ無視ー?」
「初詣」
「まだ、です」
背後で喚く沙和を放置して、会話は進められる。
元旦から友人宅にお邪魔したり、別の友人に出会ったり、兄の会社の上司に出会ったり、外出はしていたがそういえば日本人の恒例行事からはトンと外れていた。せっせと作成したおせち料理は帰宅したらほとんど残っていなかったし、結局まともに口に入ったのは雑煮だけだった。振り返った、年初めに頭を抱えた奈智をどう判断したのか、堀ちゃん先輩は声無く苦笑する。
「寄り道していくか」
「やったー、けってぇーい!」
諸手と声を上げた沙和に、そういえばとその先輩は尋ねる。
「有名どころじゃなくていいのか」
足立家の近所である。もう少し離れた所では、テレビでコマーシャルもやっているほどの有名神社が構えている。
「いーの! なちと堀ちゃんセンパイと行きたいから!」
「多聴兄とはいいの?」
「今度、一緒に行くからいーのー」
知らされる他県の神社は、なるほど学問で有名な場所である。兄は弟であり恋人である沙和の現在の成績を憂いているのか、はたまた今後の進学に対して危機を覚えているのか。どちらにせよ、神頼みよりもまずは日夜の行動ではないか、と考える己は間違っているのだろうか。
「あ!」
急に大声を出した沙和に飛び上がった奈智は、そんなに変わらない顔に大慌てで視線をやった。
「オレ財布持ってないー。なち、貸してー!」
「はいはい」
しかし賽銭を借りるって、あまりご縁がなさそうなのは気のせいか?
溜め息をつきつつ、無駄に抱きついてくる沙和の差し出されている掌に小銭を乗せてやる。
「ありがとー!」
嬉々として握り締めて子供のように賽銭箱に向かって走り出す背を見送って、再び覗いた財布に求めていた穴の開いた黄色を見つけられなかった。どころか、銅色も見当たらない。
そうか。先日、暖を取る為に購入したペットボトルに十円も使い切っていた。まぁ百円でもいいか。思いを巡らせた奈智は諦めた。
今年最初に飛び立ったゴエンも、自分よりは沙和を選んだというだけだ。気にしても今さらだ。
「二人分」
「え……?」
突如として目の前に現れた十円に瞠目する。
「これしかなかった」
見上げた先では口角を上げた彼が箱に投げ入れる所だった。弧を描く賽銭を眺めていれば、促すように軽く背を押される。
「あ、ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
やさしい気遣いに微笑んだ奈智は、舞い降りた幸いに手を合わせた。
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