3 / 34

横居との関係

大澤への取材から数日後。 今日の仕事を全て終えた敏雄と横居は、職場近くの居酒屋に向かった。 この居酒屋には日頃からよく行っていて、横居とカウンター席に並んで座って、仕事の愚痴をこぼし合うのが常だった。 人様から見たら、軽薄な印象のパーマヘアの若い男と、40半ばにもなる貧相な男が並んで座っている様は、何とも異常であろうと敏雄は考えている。 それこそ、初めて横居とここへ来たとき、「いらっしゃいませ」と歓迎の挨拶を告げた店員は、不思議そうな顔をしながら席に通してくれた。 「伊達さんがマークしてたアイツ、アカウントに鍵かけましたよ」 枝豆をチマチマつまみながら、横居がスマートフォンの画面を見せてきた。 そこに写っていたのは、自身の宣材写真をアイコンに設定してある大澤のSNSのアカウントで、投稿やコメントは全て非公開に設定してあった。 少し前までは、投稿内容もコメント欄もしっかり公開してあったのだろう。 さわやかな笑顔の宣材写真が、今はただただ痛々しい。 「やっぱり、ぜーんぶクロだったみてえだなあ」 言って敏雄は、カシスオレンジをあおった。 「取材したとき、アイツはどんなカンジでした?」 皿の上にあった枝豆を全て食べ切った横居がビールを口に含むと、上唇に泡が残った。 「ずーっと「事務所通してください」「何も言えないので」の一点張りだったよ」 それを見かねた敏雄が、横居の口についたビールの泡を指で拭ってやった。 「うーん、逆ギレでもしてくれりゃあ、絵的にもインパクトあってウケると思うんだけどなー」 横居はなんの抵抗もせずに敏雄に唇を拭かせて、「なんだガッカリ」と言わんばかりの顔をした。 「まあ、今回も結構に注目されたし、話題集めにはなったから、良しとしようや」 敏雄は指先についたビールの泡を舐め取ると、苦虫を噛み潰したような顔をした。 敏雄はビールはあまり好きではないから、毎度毎度こんなものをガブガブ飲める横居に、奇異の目を向けたくなる。 「そっすねー……」 口先ではそう言うものの、横居はどこか納得していないようだった。 「それと、例の中学校の記者会見はどうでした?」 大澤の取材に行く数日前、敏雄はいじめにより自殺者が出た中学校の記者会見に向かっていて、話題はそちらに切り替わった。 「被害者の女の子、自殺する6日前にトイレに連れ込まれて、同級生たちに自力で立ち上がれなくなるくらいにボコられてたらしいわ。それを知った別の子が、「いじめがありました」って担任に報告してたそうだ。そこをな、「その日から亡くなるまでの間にいじめの確認はしましたか?」って聞いてみた」 「どうでした?」 「校長曰く「今となっては、まったく気がつかなかった、というのが事実です」だとよ。ぜんっぜん答えになってねえわ」 敏雄は串に刺さったつくねの塩焼きを、前歯でもぎ取るようにして口に入れた。 「オレは会見行ってないから断言はできないですけど、たぶんクロですよねえ。 そのへん掘っていったら、もっとヤバいもん拾うことになりそう…」 「ああ、たぶん、学校側はまだ何か隠してる。何なら、今ごろは隠蔽工作に必死かもなあ」 記者会見での校長の歯切れの悪い口ぶりを思い出す。 ──あの様子だと、もう少し切り込んだ方が良さそうだな… 今後の取材についての計画を頭の中で練りながら、敏雄は咀嚼したつくねを胃に流し込んだ。 「ありえますねえ。ところで、この後はどうします?ホテル行きます?また伊達さんの家?それとも、オレの家?」 横居が敏雄の膝に手を置いてきて、意味深に撫でさすってきた。 「昨日の今日でまたヤるのか?」 「イヤですか?」 横居は含み笑いを浮かべると、敏雄が履いているズボンのファスナーのスライダーを、指先でピンと弾いた。 「別にいいけどよ」 敏雄は「おイタが過ぎるぞ」とばかりに、横居の手をやんわり払いのけた。 「じゃ、もう出ましょうよ。ここからだと、オレの家が近いから」 横居が唇を敏雄の耳に近づけて囁いた。 「わかったよ」 横居に急かされて、会計を済ませてから店を出ると、12月初旬の寒風が耳や頬を突き刺してきて、敏雄は身震いした。 ──も12月のことだったな… 20年前にあったことを思い出しながら、敏雄はコート越しに右腕の傷跡を撫でさすった。 「伊達さん…」 玄関ドアを開けて中に入るなり、横居が後ろから抱きついてきて、耳たぶに唇をつけてきた。 「寝室まで待てねえのか、お前は」 敏雄は自分にまとわりついてくる横居の体を、肘で小突いて払いのけた。 「実を言うとねえ、店入ったときから、ずっと勃ってたんです」 払いのけられたことに気を悪くするわけでもなく、横居は早急な動きで靴を脱いだ。 それに続いて、敏雄も靴を脱ぐ。 「ベッド、行きましょうか」 横居が肩に手を置き、敏雄の体を抱き寄せて、そのまま唇を重ねようとしてきた。 「先に風呂に入りてえんだけど…」 敏雄はお互いの顔と顔の間に手をかざして、横居からのそれを妨げた。 たらふく酒を飲んだからか、相当に暖房が効いた居酒屋に長時間いたからか、冬場だというのに汗をかいたし、そのせいで体がベタついて気持ち悪い。 さすがに、こんな不衛生な状態のまま事に及ぶのは抵抗があった。 「オレは風呂入らないで欲しいんです」 横居は敏雄の貧相な肩に鼻を#埋__うず__#めると、すうーっと思い切り息を吸って、臭いをかいだ。 「臭うだろ」 「それがいいんじゃないですか」 顔を上げた横居が、楽しげに薄ら笑いを浮かべた。 「変態ヤローが!」 その様子を薄気味悪く思った敏雄は、悪態をついた。 付き合いはそこそこに長いが、こんな中年男の体臭に興奮する性癖しかり、バカみたいに苦い飲み物を平気で飲む味覚しかり、敏雄はこの男が理解できないでいた。 横居は現在32歳。 記者として働き出してから、もう10年になる。 敏雄が横居と初めて寝たのは、今から7年前のことだ。 そのときは酒の勢いを借りての、成り行き任せであった。 7年前の冬ごろ、居酒屋で2人して酒を飲み、泥酔したままホテルに向かって、そのまま関係を持ち、今に至る。 これだけ聞けば、よくある話だし、他人が聞けばあまりにもバカげた成り行きだったであろう。 しかし、お互い決まった相手もいなかったし、かといって「溜まるものは溜まるから」ということで、この関係はずっと続けられていた。 今回は結局、横居の若い勢いに負けて、風呂に入らずに寝室に向かった。 「んっ…」 寝室に入ると、すぐさまベッドに押し倒されて、唇を塞がれた。 唇はつけられたままで、横居が体中を(まさぐ)ってくる。 そうしているうち、着ているシャツを捲られて、指先で乳首を撫でられた。 横居は、ここを(いじ)るのが大好きで、これを繰り返されているうち、少し触れられるだけでしっかり反応するようになった。 このことを本人に言ったところ、それはもう嬉しそうに「開発成功ですね」なとどニヤけてきて、大層気持ち悪かったことを覚えている。 今度は母親の乳房にすがりつく乳飲み子みたいに、ちゅうちゅう乳首を吸い始めた。 「んんっ……」 「あー…これ、さいこー」 横居が乳首を吸いながら、犬のようにクンクン臭いを嗅ぎ始めた。 「ん、あっ…はあっ…お前は犬か!」 敏雄が喘ぎ混じりのため息を漏らす。 そんな敏雄の言葉など完全に無視して、横居は敏雄の胸や腹を、一心不乱に舐め回した。 ──マジでしつけの悪い犬そのものだな こうなってくると、横居は歯止めが効かない。 これでは何を言っても無駄だろうと感じた敏雄はすっかり諦めてしまって、好きにさせることにした。  ──風呂入ってねえから汚えだろうに、よく舐めてられるな… 横居の舌の感触にうめきながら、敏雄は天井を見つめていた。 舐められすぎて、上半身が唾液でベタベタして気持ち悪い。 敏雄の体を心ゆくまで舐め回した横居は、今度は敏雄が履いているズボンのボタンをはずして、ファスナーをおろし始めた。 おそらく、脱がせようとしているのだろう。 早く行為を終わらせたい敏雄は、脱がせやすいように自分から腰を浮かしたり、脚を動かした。 乱暴な手つきでズボンが脚から引き抜かれると、上はシャツ1枚で下は素っ裸という、なんとも間抜けな姿になる。 しかし、横居はそれで充分に興奮するらしく、忙しない動きで自分が履いているジーンズの前をくつろげて、いきり勃った男根を露にした。 赤黒く屹立(きつりつ)したそれは、解放されると同時に、ぶるんっと自己主張してきた。 「いやあ…ホント、慣らしてる時間がもったいなく感じますよ」 情欲で瞳をギラつかせた横居が、自身の指を口に含んだ。 唾液では粘り気が弱くて、挿入するときにしんどくなるので潤滑剤を使って欲しい。 そうは思っても、興奮している横居に何を言っても無駄とわかっている敏雄は、されるがままになっていた。 「だったら、さっさと挿れろよ」 恥も外聞もなく、敏雄は脚を思い切り開いた。 それを合図に、横居が口から指を引き抜く。 「わあ、伊達さんたら、そんな欲しがっちゃうとかマジで淫乱!」 敏雄はさっさと行為を終わらせたいだけなのだけど、横居はこれを嬉しく思ったらしい。 たくさんのご馳走を出された子どものように楽しげな顔をして、敏雄の窄まりに指を挿れてきた。 「つッ…」 横居の指は太くて硬いし、しっかり滑らせていないから、挿入されるときの圧迫感が凄まじい。 「今日もしっかり呑み込むんですねえ」 ──お前がムリヤリ突き挿れてるからだろうが! 的はずれな言葉にイラつきながら、敏雄は脚を広げたまま寝転がっていた。 指1本だけで辛いのに横居ときたら、しっかり解れていないうちから、2本目の指を挿れてきた。 なるだけ苦痛が和らぐように体の力を抜いたが、それは気休め程度にしかならない。 3本目が挿入ってきてもそれは変わらず、出血こそしていなかったが、体を割り開かれる違和感は、ただただ気持ちが悪いとしか思えなかった。 「挿れますよ…」 指が引き抜かれたかと思うと、避妊具をつけた横居の先端が、窄まりにトンっと当たった。 そのまま腰が押し進められて、男根が腸内に侵入してくる。 「ううッ…」 体の内側を抉られる感触が気持ち悪くて、敏雄はうめいた。 「キッツ…」 横居が気持ちよさそうな顔で呟く。 ──ロクに慣らしてねえんだから、キツいのは当たり前だろ! 敏雄は内心悪態をついた。 「ゔうっ…いぎっ」 ただでさえロクに慣らされていないのに、横居はお構いなしに腰を前後に動かしていく。 大きな芋虫に体内を食い破られているような感覚がして、気分が悪い。 「ああっ!」 横居の先端が敏雄の最奥を突いて、待ち侘びた快感がようやくやってきた。 この快を得るのに、敏雄は結構長いこと待った気がする。 「最高ッス、伊達さん…」 横居が体を前後に揺するごとに、快感が増していき、絶頂も近づいていく。 「ああっ、はあ…んっ」 体内で横居の男根が擦れて、気持ちがいい。 これを感じるために、ここまで我慢した甲斐があった。 あとは、近いうちに来る絶頂を待つだけ。 そう思っていたが、その期待は脆くも儚く砕け散ることになる。 「伊達さん、オレ、もう出しますね」 横居が腰の動きを速めて、自身を射精に導いていく。 「んんっ…は、あっ、ああっ!」 「あ、でるっ!」 敏雄が絶頂を迎える前に、横居が射精した。 ──このクソッタレ! 「今日もヨかったです、伊達さん…」 横居が満足げに体を擦り寄せてきた。 ──こっちはちっともヨくねえっての! 思ったような快感が得られなかった敏雄は、横居に見えないように、自分で前を弄って射精した。

ともだちにシェアしよう!