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呆れた教師たち
保護者からの追及は、まだ終わらない。
司会役が「ほかにございますか」と言い終わらないうち、男性の保護者がまくし立てた。
『子どもに確認したところ、「先生たちからはちょっとだけ話があったくらいで、詳しい説明は何もなかった」って私は聞いてるんです。
こんなに大騒ぎになって、やっと私たちは事の経緯を知りました。被害者の女の子が亡くなったとき、先生たちの誰ひとり、謝罪もお悔やみの言葉ひとつなかったし、この子の葬儀には学校側の人は誰も参加してなかったそうじゃないですか!
そんな有り様で、この期に及んで「お悔やみ申し上げます」なんて、どの口が言うんですか⁈先生たちは「答えられない」とばかり言いますけど、ちゃんと答える気があるのかも疑問なんです。ちゃんと誠意を持って説明してください!』
話しているうち、男性の保護者の語調はどんどん強くなっていく。
この保護者も神木同様、相当に怒っているのが嫌でもわかった。
『…大変申し訳ございません。今後の保護者の皆さんの相談にも、しっかり寄り添って対応して参ります』
さっきまでと大して変わらない答えが出たところで、次の保護者の質問に移った。
『すみません、校長先生以外にも、ご意見をいただいて構いませんか?今日は、校長先生しか発言しちゃいけないんでしょうか?』
女性の保護者の声がした。
『いえ…代表して話している形です』
校長が気まずそうな声色で答える。
『それなら、ほかの先生の意見を聞かせていただけませんか?教頭先生は、被害者の女の子がまだ生きてるときもいらっしゃったんですよね?間違いなく関係者ですよね?
それこそ、川への飛び降りがあったときに被害者の女の子のお母さんから相談されて、謝罪の場を設けるように指示を出したのは教頭先生だって聞きました。
それなのに、さっきからずっと黙ったまま座っているだけなら、この場にいる意味はあるんですか?
一言くらいはご意見をもらえないんでしょうか?』
保護者が早口で詰め寄ってくる。
──教頭もこの場にいたのか…
敏雄はここで初めて、教頭の存在を確認した。
ここまできて、まったく声を発さないものだから、教頭も担任教師と同様、不在だと思っていたのだ。
そもそも、この保護者会に教師やその他の学校関係者が何人参加しているかさえ、まだ把握はできない。
『あ、それは可能です。はい…』
『お願いします!』
しどろもどろな校長に対して、保護者が強い口調で言い放つ。
口先では「お願いします」とは言うものの、ほとんど強制に近い響きがあった。
バタバタという大きな足音や、カタン、パタンとマイクを動かすような音が聞こえてきたかと思うと、教頭が話し始める。
『あー……私の方からお話できることはですね…また、同じ言葉の繰り返しになってしまうんですが、今後の第三者委員会で全て、誠実にお伝えさせていただきたいと思っています。
あと、今回の報道に関することは、個別の案件に関わることがありますから、お答えすることはできません。
それと、私自身は、法に反する行動は何ひとつしていない、ということだけは、伝えさせていただきたいと思います…』
教頭の言葉を聞いた敏雄は、口内でギリギリと歯ぎしりした。
この教頭とて、「自分の生活第一で何が悪いのか」と敏雄に吠えかかってきた担任教師と何ら変わらない。
彼は自分の職場である学校はおろか、上司にあたる校長も、部下にあたる担任教師だってどうだっていいのだろう。
──赤の他人の父親が勇気出して、身分を明かす覚悟で来てるっていうのに、この学校の連中ときたら!
敏雄は異常なほどの吐き気を催した。
そもそも、この保護者会が行われた理由も、保護者や関係者、全国各地から数百件もの苦情が殺到したから、というものだった。
この後も、爆破予告があったと聞いたが本当か、いじめがあった学校から出たばかりに推薦が取り消されることはないのか、など保護者たちからの追及は続いた。
この怒号が飛び交う保護者会は、約90分にも及んだ。
しかし、依然として進展はなく、以前聞き取りをした保護者の女性が言う通りの堂々巡りであった。
敏雄が神木に対応している間、青葉は自分のデスクに座り、渡された資料を読もうとパソコンの電源を入れた。
続いて、敏雄から渡されたUSBメモリをパソコンに挿してデータを起動させると、画面に出てきた資料の膨大さに驚いた。
──伊達さん、たったひとりでこんなに調べてたのか…
同時に、ここまでの敏雄の努力や苦労が垣間見えた気がして、敬意と感心も覚えた。
青葉はマウスを軽く握ると、まず最初に目についた記事をクリックして、読んでいくことにした。
それは、加害者グループの副リーダーとされているC男の父親を取材した際の記事であった。
『今事件の主犯格のひとりとされており、死亡したA子さんのわいせつ画像や動画を所持していたことから触法少年扱いとなったC男は、未だにどのメディアの取材にも応じておらず、すべて父親が代理で出ている。
それは週刊文士の取材に対しても同じことで、C男の父親がどのように応じたかは、以下の通り。
──今回の事件について、どう思われますか?
『息子はいいも悪いも何もよくわからないでやってしまったんですよ。
どういうものかぜんぜん知らなくて、興味本位で言っただけと思うんです。
息子から聞いた話では、冗談紛れで(画像を送ってほしいと)言ってみたら、A子さんが本当に自分で撮って送ってきたらしいんですよ。
息子も初めて見て驚いてすぐに消したらしいんですけど、
その前にB子ちゃんに『送って』としつこく言われて、送っちゃったみたいです。
息子はそのあとに画像データをすぐに消していて、警察もそれは確認済みのはずです』
──A子さんに自慰行為を強要させた場にも、C男君はいたそうですが?
『それはほかの子たちがやったことですよね?
息子からはA子さんが『嫌だ』って泣いたから、結局はやっていなかったと聞いていました。
みんな嘘をついているのか、隠しているのか、自分を守りに入っちゃうし、本当のところはわたしだってわからないですから。』
──C男くんは『(画像を送らないと)ゴムなしでやるからかな』とA子さんにメッセージを送ったという証言もありますが
『それはないですね、絶対にないです』
この「絶対にない」に対して、なぜそう思うのか。
この「ゴムなしでやるからな」というメッセージは記録として残っており、それは警察も把握済みである。
それをこちらから言及してもなお、C男の父親は「絶対にない」と言い張り続けた。
また、C男の父親は取材の終わり際には「息子や先生たちから聞いたんですけど、A子さんのお家はたしか母子家庭でしたよね?
それ考えたらねえ。はっきり言って、向こうのご家庭にも問題はあると思うんですよ。
それなのに、全部こっちのせいにされて、困ってるんです」とも語った。』
──ふざけんな、このオッサン!
マウスを握っていた青葉の手に異常なほどの力が加わり、わなわなと震えた。
それと同期して、パソコンの画面に表示されたグラフィックカーソルも震えている。
──母子家庭だから何だってんだよ!両親ともにそろってる家庭で育ててるくせに、テメエの息子は「いいも悪いもよくわからない子ども」になって、挙句に「触法少年」になってんじゃねえか!
はらわたが煮えくりかえりそうなくらいの不快感を覚えて、青葉は一度データを閉じた。
──この大バカオヤジ、息子をそんなふうに育て上げちまった自分をどう思ってんだ?
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