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第8話
しかし目的の本の位置が高くて届かない。ただ台を持ってくるほどではなく、もうちょっとで届きそうだった。だから僕は背伸びをした。
「あ」
すると声がかかった。手を伸ばしたままそちらを見ると――会いたくなかった、ジャック様がいた。
「……ご無沙汰いたしております、ジャックロフト王太子殿下」
「……ああ」
ジャック様は声変りをしていた。僕はまだなのに二次性徴も来ている。完全に身長で負けて、イラっとしたが、僕は会釈をしていた。
「どの本だ?」
「え?」
「届かないのだろう?」
「……届きます!」
僕のプライドが傷ついた。僕は背伸びを再開した。つま先立ちで手を伸ばす。
すると――ひょいっと目的の本をジャック様が取ってくれた。
「ほら」
「ありがとうございます……」
「……お前は変わらないな」
「どうせまだ背は伸びませんよ!」
「そういう意味ではなくて――っく……ああ、もう……」
「じゃあ僕は帰りますね」
「そういうところだよ!」
と、こうして僕は接近を回避した。
そんな僕に二次性徴が訪れたのは、十五歳の時の事で、それが終わったのは十六歳の終わりごろだった。来年は十七歳……十八歳になったら、僕も問答無用で王立学院へ行かなければならないので、準備期間はあと一年ほどである。
なお――まだセリアーナがジャック様の婚約者になったという知らせはない。
最近のセリアーナは、僕を見ると複雑そうな顔になる。
「お兄様」
「ん?」
「……その……お兄様は、外国語以外に興味はあるのですか?」
「え? あるけど? 急にどうしたの?」
「お兄様を紹介してほしいと、幾度か言われておりまして」
「どこの誰にどんな理由で?」
「遠隔的な縁談です」
「断っておいて」
「それは……心に決めた方がおられるから、とか……?」
「まさか」
「ですよね。ジャック様に初恋をなさったなんて言うのは、盛大なデマですよね?」
「うん? 誰が?」
「なんでもありません」
こんなやり取りが多い。
さて――いよいよ十七歳になった僕は、最後の一年何を頑張ろうか検討していた。
ノックの音がして、父が入ってきたのはその時の事だった。
最近ではめったにこういう事は無かったので、僕は首を傾げた。
「フェルナ、話がある」
「どんなご用件ですか?」
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