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あなたが好き、でも僕じゃだめ
その後週末ごとに、ふたりで出かけた。
まずは俺の提案で、都内のグランピング施設に行った。
食材も機材もすべて向こうで用意されている。
バーベキュー用のコンロで肉や野菜、焼きそばなどを調理し、ゆったりとした作りのテントの中で食した。
決してクオリティの高い肉ではなかったが、澄伽は半分屋外で食事している雰囲気が気に入ったようだった。
『マシュマロって焼くとこんな美味しいの!?』
と驚いていたのが可愛くて、俺の分まで食べさせてしまった。
その次の週は、澄伽が行ってみたいというこちらも近場の遊園地に行った。
『あれに乗る!』
『もう一回乗ろう!』
『遊司郎さん!早く!』
好奇心も若さも何もかも俺よりありすぎる彼に、延々付き合わされてしまった。
観覧車の中で告白だなんてクサいことはしない。
景色の美しさよりも、地上にいる人たちの小ささに驚き夢中になっている、そんな姿が微笑ましくそれだけで満足できた。
夕刻を迎えた遊園地には、イルミネーションの光が灯っている。昼に乗った観覧車も、今はレインボーカラーに光り輝いている。
色とりどりの光に照らされた澄伽の口数は減っていた。はしゃぎ疲れたんだろうか。
「疲れちゃった?そろそろ出よっか?」
「うん……」
「出口あっちだっけ。今日も一緒にご飯食べてく?」
快い即答はなかった。澄伽は立ち止まり俯いている。
「どした?ほんとにしんどい?」
「あ、あの訊いてもいい?……遊司郎さんって、さ……その、付き合ってる人、とか、いないの……?」
「え?何、急に……」
「だって、俺と毎週会ってくれる。恋人とかいたら、その人放ったらかしにしてんじゃないかなって……」
胸がざわめく。
澄伽が俺の恋愛事情について何かを考え気にしている。その真意が掴めないなら、まずは尋ねられたことだけに正直に答えるべきだ。
「恋人はいないよ。言ってなかったかもだけど、俺バイなんだ。男も女もどっちもイける」
「そうなんだ……」
「親はそんなこと知らないから、早く結婚しろ結婚しろってうるさいけどな」
途端、澄伽から表情が消える。
「結婚、するの……?」
「しないよ。そんなの考えられるような相手、どこにもいない」
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
「でも女の人の方が綺麗だし、遊司郎さんなら絶対モテるよね?」
「だからないって。女の子は面倒くさいからね。あと、ついでに付き合ってる男もいない」
『ほんと?』と『ほんとだよ』を繰り返す。
その果てにようやく納得したらしい澄伽が、
「そっか……それならよかった……」
小さく呟く。
初めて見る表情だった。喜びと安堵を押し殺すように、唇を噛み締めている。
俺の胸のざわめきは、バクンバクンとうるさい鼓動に変わっていた。
「そしたらおれ……遊司郎さんに言いたいことある……」
「うん。何?」
何度も言いかけるように口をはくはくとさせ、迷いを断ち切るためか首をふるふると横に振っている。
「ごめんなさい……おれ、好き……遊司郎さんのこと……」
俺をようやく見上げてくれた澄伽は、申し訳なさそうに泣きだしそうにも、どこか自嘲するように笑っているようにも見えた。
悲しげな瞳にイルミネーションの光が虚しく反射する。
「おれ、ね……水族館で買ってもらったやつ、星の砂のやつ、毎日何回もお願いしてた。……遊司郎さんもおれのこと好きになってくれますようにって」
澄伽が俺を想ってそんなことを。
真っ白な星が流れ落ちていくのを、頬杖でもつきながらせつなげに眺めている姿が容易に想像できた。
すぐにでもきつく抱き締めたかった。
けれど多くはないとはいえ、ここには人通りがある。どこかふたりきりになれる場所を探さなくては。
「でも、やっぱりおれなんかじゃダメに決まってるから」
「待って、ダメじゃないから。全然ダメじゃない」
適切な隠れ場所を探すのに気を取られ、雑な返答になってしまった。
「それでも言いたかったから……。あの、今日もありがとう!帰ります!」
「待って澄伽……!」
初めての呼び捨てはきっと聞こえていない。
逃げるようにイルミネーションのトンネルの中を走り去って行ってしまった。追いかけようとしたが光と暗闇の間に見失う。
果たして追いついけたところで、俺たちはどうにかなれただろうか。
澄伽が勇気を振り絞って伝えてくれた想いは無駄にはできない。
けれど、俺の中で決定的に何かが足りない。それは何だろう。
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