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中学編~第一話
「向こうではいましたが、こっちに来てからは日が浅いのでまだ…」
自己紹介の質問コーナーも無事に終わり、指示された席に着く。隣の席の奴と適当に会話をしながら、程なくして休み時間になった。『待ってました!』と言わんばかりに、葵の周りにクラスメイト達が集まり、矢継ぎ早の質問攻め。段々鬱陶しくなってくる。
挙句名前も分からない女子数人から渡されたのは、POPなデザインやキラキラとしたデザインのプロフィール帳。名前や趣味、裏面には【クラスで可愛いと思う子は?】みたいな簡単な質問や、心理テストみたいなものがぎっしり書いてあった。ここに越して来たばかりで、名前も分からないのに書けるわけもない。突っ返そうと思ったが、ちょうど授業が始まりみんなが席に着いてしまって、一体誰がこれを自分に渡したのかもよく分からなくなってしまう。
授業中に一通り表面の最低限だけを書き上げて、フリースペースとやらに描くか描かないか迷ったが、隣のやつに持ち主を割り出して相手の子の似顔絵を簡単に描いてやる。何も描かなくても良かったのだが、裏面はほぼ白紙だったし鬱陶しいのには間違いないのだが、何も書かないのもなんだか悪い気がしてしまったのだ。次の休み時間でそれぞれに返してやる。案の定女子たちは揃いも揃って、葵の絵を褒めちぎる。
「母親がデザイナー兼イラストレーターとかでさ、昔からよく手伝わされてたんだよね。漫画のアシスタントみたいな。気付いたら俺もそれなりに絵は描けるようになっちゃって…」
「ええ!?でもそれでここまで描けるのって、やっぱり藤堂君すごいよー」
「……昔からわりと器用なほうではあるけど、それだけだよ」
そしてようやく放課後。数人に『一緒に帰ろう』と誘われたけれど、今は一刻も早く帰りたかった。
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