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中学編~第八話

再び炎天下の応援席。 今競技をしているのは二年生だ。借り物競争のようなもの。応援席の前では残った一年生と三年生の応援団が、同じく残った生徒とともに声を張り上げている。こういった一致団結スタイルは、日本に来て初めて知ったわけだが見てる分には清々しい。 ただ席に座っていると、『お前も応援しろ』と言われるのは目に見えているので、監視の目が届かず、ある程度競技も見える木陰に身を隠す。プログラムを確認すると、茜たちのダンスは昼休憩を挟んだ一発目だ。そして午後に綱引きと騎馬戦がある。 午前の競技が吹奏楽部の華やかな演奏で終わり、ようやくお昼。 雅やんの姿を探すと、すでに場所取りがしてあって、ビールが何缶か空いていた。そして隣には知らない男。 「おーう、葵ーこっちだ」 すでに酔っ払いの臭いがする。 「昼間っから酒飲むなよ…。ていうか、こっちの人誰?雅やんの連れ?」 「そこまで酔ってねーよ。こいつはオレと同業者。この量の弁当二人で食い切れるかも微妙だしな、暇だっつーから連れてきた」 要は巻き添え食らったのか、この人。雅やんが連れてきた男は、修斗といって雅やんと同じくバーの経営者らしい。デキてるのかと聞いたら、修斗の方が顔を赤くしたからビンゴなのだろう。 それから三人で、ノブママの弁当をなんとか完食する。 雅やんは朝、昼時に来ると言っていたくせに、俺の出る競技を全部見ていたという。 「青春じゃねーか、いいねえ」 「僕も一緒に見させてもらったけど、葵君すごかったね。思わず君が一位になった時、ガッツポーズしちゃったよ」 「あ、ありがとうございます」 修斗は所謂〝癒し系〟な感じで、満面の笑みで褒められると、どう反応していいか分からなくなってしまう。笑顔が眩しいのだ。すごく。葵の父親の笑顔も、ものすごく眩しくて、喜ぶポイントが子供とそう変わらないというか。ふとそんなことを思い出す。 一頻り雑談して、茜の姿を探す。 「あ、ちょっと待って今行く!」 茜の姿を見付けたと同時に、向こうもこちらに気付いたらしい。弁当の残りをかき込んで、親になにか話してこちらに向かってくる。 「ゆっくりでよかったのに」 「だって、朝もほとんど話せなかったしさー。あ、あたしこの後のダンスちょうどうちらの応援席側しかも最初、席の真ん前で踊るからちゃんと見ててね!」 「おっけー。ばっちり見とく」 そうこうしてる間に、女子はダンスのスタンバイをする時間になる。 「やっばー…もう行かなくちゃ!」 慌ただしく茜はかけて行ってしまう。休憩の始まりと同じく、吹奏楽部の演奏が午後の部の開始を告げる。炎天下の中に戻るのは嫌だったが、茜にダンスを見ると約束した以上、見ないわけにもいかない。隣に座っていた同級生曰く、教師の決めた課題曲にみんなで振りをつけた創作ダンスらしい。スローテンポな動きからアップテンポへ、そしてアクロバティックまである。 先程茜が言っていた方向に目を向けると、確かに彼女がいた。満面の笑みで、堂々と踊っている。全力で取り組んでいる姿は美しいと思う。自分にはないものだ。 ダンスを終えた茜が戻ってくる。入れ違いで、葵たちのスタンバイが始まった。茜とすれ違い様に、彼女の頭を撫でてやる。 「おつかれさん」 程なくして始まった綱引きも終わり、ようやく騎馬戦。180cm近くある葵は必然的に騎馬の先頭になる。敵陣に突っ込む一番槍など、一番やりたくないのだ。周りに少々気圧されながら、なんとか生き延びる。出来ることなら、次はやりたくない。 本当は閉会式が終わる前に帰りたかったが、理由付けて帰れるような雰囲気でもなく、そのまま最後までいることにする。こうして全日程が終わり、ようやく解放された。 こういう学校行事はどうしてこんなにも疲れるのだろうか。決して楽しくないわけでも、達成感がないわけではないのだけれど終わった後、緊張感が切れた時の脱力感がとてつもない。感無量とかそういうことではなくて、ただただ疲れる。歳不相応だとは思うけれど。 これが漫画やアニメの世界ならば、友情度やら好感度アップのイベントなのだろうが、現実問題そんなフラグは求めていない。 茜は、親が待っているというので今日は一緒に帰っていない。葵は一度帰っていた雅やんを呼び出して、車で家まで帰る。 『中学生のうちから年食ってんなー、お前』と鼻で笑われたが、色々気を遣うのだと反論しておく。 来月には合唱コンクール、その翌週にはボランティアの保護者たちがメインで行われる、文化祭のようなものがあるらしい。後者は自由参加だというので、当然不参加だとして問題はそのあとである。まだまだ続く怒涛の学校行事ラッシュ。

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