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中学編~第九話

約束の時間よりも少し前に待ち合わせの場所に着くと、柄にもなくそわそわとしてしまってなんだか落ち着かない。しばらくすると巽が現れ、いつものビシッとしたスーツ姿ではなく、少しだけカジュアルな落ち着いた雰囲気のなんとも巽らしい出立ちだ。 「……ごめんね、待たせちゃったかな?」 申し訳なさそうに言う巽に、『俺も、さっき来たところだから』と笑う。 「今日は、俺に任せてもらえないかな?」 そう言う巽にエスコートされて、連れてこられたのは美容院だった。馴染みの店員なのだろうか、女性店員と何やら奥で話し込んでいる巽。しばらくすると彼女がこちらへやって来て、少し伸びてしまっていた髪を綺麗に切り揃え、整えてくれた。 次に巽に連れられてやってきたのは、高級そうなスーツ店だった。 「頼んでおいたやつは出来てるかな?」 巽の言葉を聞くと店員はこちらを見つめて頷き、奥へと消える。 「…あの…巽さん……、こんな…俺…」 「俺がしたいんだ…、迷惑だったかな?」 眉をへの字に曲げて、困ったように巽は葵に問う。漫画や小説やなんかに出てくる一節のような、お決まりのフレーズ。葵自身も付き合ってきた彼女たちによく言うけれど、自分が言われる立場になるとこうもむず痒いものだとは思わなかった。そしてそう言われてしまえば、絶対に彼女たちはそれ以上なにも言わない。実際、葵もなにも言えなかった。 そのまま買ってもらった服を身に付けて、巽に連れられて来たのは、またもや高級そうなフレンチレストラン。そして案内された席は、もちろん窓際の特等席。 (わあー…、スカイツリーがよく見える……) 周りは大勢のカップルで賑わっていた。

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