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中学編~第九話

「好きなものを食べるといいよ」 などと言われたが、メニューを見てもよく分からなかった。フランス語は多少分かるが、残念ながらフレンチに対する知識が乏しすぎて、どんな料理なのか見当もつかない。なので、巽にお任せする。 程なくして、食べるのがもったいないくらい綺麗に盛り付けされた料理が運ばれてくる。巽はワイン、葵はノンアルコールカクテルを片手に、乾杯して料理を口に運ぶ。 「……美味しい…」 「そう、口に合ったようでよかったよ」 他愛ない会話をしながら、葵はいつ話を切り出そうか頭を悩ませる。結局、食事が終わるまでなんとなくタイミングがつかめず、デザートが運ばれてきてしまった。 意を決して、口を開く。 「……あのさ、俺…巽さんに……、話しておかなくちゃいけないことがあるんだ……」 そして、全てを巽に話す。話終わった後、まともに巽の顔が見れず、俯く。 「……話してくれて、ありがとう」 「……怒らないの?」 巽は怒るでもなく、軽蔑するわけでもなく、ただ優しく微笑んでいた。 「うーん……。驚きはしたけど、隠していたかった気持ちはなんとなく分かるしね。俺も葵と同じ立場なら、誤魔化していたと思うし」 そう言って、巽は肩を竦める。それから、会う前に買っておいたプレゼントを渡して、その夜は家に帰されそうになったけど、我儘を言ってホテルで一夜を明かした。 そして朝、目が覚めると目の前には巽の顔。思わずときめく。不覚にも。

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