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中学編~第九話

それからは女の子たちと付き合うことがなくなったため、今までほとんど出ていなかった部活に顔を出すようになった。顔を出すや否や、春体の人数が足りないとかで、頭数に入れられてしまう。 (どんだけ人数足らないんだ、この部活……) 指導が厳しいとかで、万年部員不足だという。なにはともあれ、今の葵にとっては気を紛らわせるのに売って付けだった。練習に明け暮れ、気付けば大会当日を迎えていた。 『そういえば、朝霧秋葉はどうしているだろうか…』ふとそんなことを思う。確か、自分より学年が一つ上。もしかしたら、今日の大会で当たるかもしれない。 葵が今回出るのは、個人の部だった。会場に着いて、対戦表を確認すると運が良ければ決勝で当たるようだ。 「…調子はどうだ、藤堂」 監督に問われる。 「……上々ですよ。勝ち進めば、あの朝霧秋葉(あさぎりあきは)とも当たるみたいだし」 「珍しくやる気だな」 監督が驚いたように言う。今までほとんど顔を出さなかった葵が、急に部活に来るようになり、大会で己の目的のために戦おうとしているのだ。そりゃ驚かれる。 「……気が、向いたんですよ。三年になったら、進路とかもありますし。そのための保険というか」 最もらしい理由をつける。ちょうどアナウンスが流れて、自分の名前が呼ばれた。 相手との対峙。 さすが、春体出場者だ。気迫が前とは全く違う。だが、そんなことは葵に関係なかった。全てを忘れようとするように、それはまるで悪鬼のよう。相手を斬り殺さんばかりの殺気を放ちながら、あっという間に決勝へ躍り出る。 〝もっと強い相手とやり合いたい〟 戦っている間だけは、余計なことを考えずに済む。葵が初めて抱いた向上心だ。 そして迎えた決勝。相手はもちろん、朝霧秋葉だった。面の奥からうっすら見える瞳には、静かな闘気。葵とは正反対だ。ただ共通しているのは、お互いに好敵手に出会ったと思っていること。 「…朝霧先輩…でしたっけ。強いですね……。俺の突き交わしたの、先輩が初めてですよ!」 「…俺の一打を交わした奴も…初めて見たよ……。君、秋ぐらいの大会にも出てたよな」 「……覚えててくれたんですか……っ、おっと…!」 「……名前は…?」 「…さっき放送で流れてたじゃないですか…っ……、藤堂…葵…ですよ……」 朝霧の一打をギリギリで交わす。お互いギリギリの攻防一戦だ。 結局その日の対決は、延長戦まで持ち越したものの勝敗が着かず、引き分けとなった。

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