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中学編~第十話

廣瀬は何処か空虚を見つめながら、おかしそうに笑っている。こちらを見ているのに、その瞳は何も映してはいない。薬でもやっていそうな感じだ。思わず、廣瀬と距離を取る。 「どうして…?どうして…、俺から逃げるの?怖いことなんて、なにもないのに」 完全に目がイってしまっている。廣瀬の腕が葵の首元に伸びてくる。振り払おうとしたら、逆に腕を掴まれた。廣瀬の腕ではない。 「……!」 葵の腕を掴んだのは、廣瀬ではなく巽だった。そのまま葵を庇いながら、巽は廣瀬を床へと捩じ伏せる。 「…っ、離せよぉ!」 暴れ始める廣瀬。しばらくすると雅やんが呼んだのだろう、警察が来て廣瀬を連行して行く。 「…怪我はない?」 巽が心配そうに声をかけてくれる。 「ああ…うん、大丈夫。ありがとう」 そのあと警察から葵も色々と事情聴取されたが、被害者ということもあり、すぐに解放された。それからというもの、少し店に行くのを自重するようになった。 雅やんや巽は、『気にすることはない』と言ってくれるけれど、騒ぎになったのは間違いなく自分のせいだからだ。 それに今は部活の方も大会が近いから、そっちの調整で忙しいというのもある。 それともうそろそろ、進路のことも考えなければならない。色々迷ったが、家から程近い大学附属の私立高校を受験することに決めた。 橋本の妨害に合いながら、成績も問題なく、前期選抜で難なく志望校へ合格する。こうなると部活も引退してしまった今、やることがない。

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