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中学編~第十話
長かったようで短かった、中学時代も今日で終わり。家族の席には珍しく、雅やんと両親の姿があった。思わず驚いてしまう。
「…生きてたのか…あの人…」
手紙とかはたまに来ていたし、一度こっちに帰ってきてもいたが、まさか来るとは思っていなかったのだ。
式は進み、至る所からすすり泣く声が聞こえる。他のクラスになってしまったから、あまり関わりはなくなってしまったしおりも泣いているのが見える。ここはもらい泣きとかする場面なんだろうが、生憎涙腺が固いのか淡白なのか、こういう場面で泣いた試しがない。
そしてクラスごとに担任に名前を呼ばれ、卒業証書を受け取る。
「藤堂 葵 」
「………」
橋本が最後の最後で、反撃に出たようだ。分かっているくせに、わざと名前を間違えたのだ。返事をせずに壇上に上がり、卒業証書を受け取る。そして、その場でもらったばかりの証書を破り捨てた。
会場がざわめくのも気にせず、声を張り上げた。
「…お騒がせして申し訳ございません。しかし、この二年間担任教師であった橋本光枝先生に、僕は虐げられてきました。そして、この卒業式という大事な場所でも、僕は恥をかかされ、我慢出来なかったのです」
「僕が、自分の思い描く理想の生徒ではないからと、成績表に虚偽の記載をし、僕が両性愛者であることを『不純』だと差別し、これは高校の先生に教えていただいたことですが、受験に必要不可欠である、調査書にも虚偽の記載をし、それに飽き足らずこの大事な場所で、わざと名前を間違えたのです」
「…僕はこの学校が大好きです。こうして卒業出来たことを、誇りに思います。しかし橋本先生、貴方だけは絶対に許さない」
一通り話終えて、体育館から出て行く。
「あー…すっきりした」
教室に荷物を取りに行って、外を適当にぶらつく。なんだかんだいっても、それなりに思い出の詰まった場所だ。しばらくして一度体育館の様子を覗き見ると、式は再開されているようだった。
雅やんからメールが来て、『どこにいるんだ』と聞かれたから場所を答えるとしばらくして、両親と雅やんがやってくる。3人とも、複雑な表情をしている。
「……どうしてあんなことを?」
「お前、何したか分かってんのか?」
「…葵」
口々に問われ、考えながら言葉を吐く。
「……黙ってるのは、性に合わなかったんだよ」
雅やんが溜息を吐きながら、苦笑する。
「…はーちゃん、すまねえ…。とんでもねえ、捻くれ者になっちまった」
「あはは…、いいんじゃないかな?卒業式で名前間違えるなんて、俺も許せなかったしね」
「…ほんと…葵らしい」
おかしそうに両親2人が笑う。どうやら、お咎めはなしのようだ。
「…それより、2人が帰ってくるなんて珍しいね」
「葵の卒業式ですもの」
「…一週間の仕事、3日で片付けて来ちゃったよ」
その後、妹も合流して久しぶりに家族全員が揃う。雅やんの店を貸し切って、お祝いしてもらった。両親たちは、次の仕事があるとかで翌日にはまたどこかへ行ってしまった。
「…ほんと忙しい人たち」
けれど、仕事の合間を縫って駆けつけてくれたことが嬉しかった。
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