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高校編~第一話

それからというもの、前よりも祐樹は葵の元に通って来るようになった。おそらく、葵に惚れ込んだようだった。それ以来、礼央が少しずつ葵を遠ざけ始めたように思う。 葵と礼央、2人の関係性はなんら変わってはいないと思う。授業と授業の中間休みには2人でいるし、最近は休みの日にも遊ぶようになった。 ただ、礼央が空き教室に来る回数が目に見えて減ったのだ。祐樹の葵に対する好意に気付いて、遠慮しているのかもしれない。しかし残念ながら葵は、祐樹に恋愛感情など抱いてはいなかった。 「…葵…先輩」 そう言って祐樹は時たま、葵に熱っぽい視線を向けてくる。中学の時の彼女達のように、日に日に葵に対する感情を強めながら。 「…祐樹、お前俺のこと好きなの?」  ある日の放課後、行為を終えて甘えるように擦り寄ってくる祐樹の頭を撫でてやりながら、率直に聞いてみる。 「……」 暫しの沈黙の後、祐樹は小さく頷く。 「……そう。じゃあ…もうお前、ここ来ないほうがいい」 「え…!?」 絶句したような祐樹の表情。 「…俺は、お前の気持ちには応えらんねーから」  雅やんの店の客のように、遊び相手ならいくらでも相手をしてやるが、本気の相手に遊ぶようなことはもうしたくないのだ。 「じゃあね。今まで楽しかったよ、祐樹」 そう言って、敢えて少し冷たく突き放し教室を出る。 その後、なんとなく店に行く気にはならなくて礼央を呼び出して家に招く。 「どうしたんだよ、急に呼び出しやがって」 「どうせ暇だろ、お前。何に遠慮してんだか、最近放課後来ねーしな」 「……そ、それは…色々と……。でもまあ、忙しかねーけど…今まで俺が家連れてけつったって、嫌がってたくせにどうしたんだよ?」 不満そうな礼央を曖昧にかわして、そのままベッドの上で夜を明かす。  それからしばらくの間、祐樹が葵の前に現れることはなかった。代わりに、礼央と以前のように放課後もつるむことが多くなった。毎度毎度熱っぽい視線を向けられるより、今の礼央との関係の方が心地がいい――

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