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高校編~第二話
「おーい、藤堂!今日もお呼びかかってんぞー!」
朝霧と空き教室で話をした次の日からずっとこの調子だ。放課後になると、毎日葵の教室にやってくる。用件は毎日同じ。最早、放課後の名物イベント化している気さえする。
「部活、出ないか?」
何度断っても、必ず来る。しまいには、同じクラスの子達に『いい加減出てやれば?』と言われてしまう始末。これでは俺が悪者みたいじゃないか。心外だ。
「……はあ」
特大の溜息を吐いて、朝霧と共に教室を出る。当の朝霧は葵がようやく部活に出る気になったとでも思ったのか、心なしか足取りすら軽く見える。部室に向かおうとする朝霧の腕を無言で引いて、あの空き教室へと向かう。
「……と、藤堂…どこへ行く!?よ、ようやく部活に出る気になったんじゃ「そんなわけないでしょう」」
あの日のように朝霧の言葉を容赦なく遮り、教室に着くと扉を閉め外から開けられないように、近くにあった箒で扉を固定する。
「……」
「先輩、何でそんなに俺と戦いたいんです?」
静かな教室で葵は朝霧にそう問うた。
自分は一年も前に剣道を辞めた身だ。あれ以来、練習だってしていない。防具だって今や埃を被って押入れの中だ。全盛期の自分より強い奴だって、全国にはたくさんいるだろう。朝霧はそういう相手とだって戦ってきたはずだ。
「……わからない」
「…は?」
「分からないんだ…。あんたとあの日試合をしてから、あの時の熱情が忘れられない。他のどんなに強い相手と試合をしても、あの熱情には届かない。だから、あんたともう一度試合をしたいとずっと思っていた。そうすればこの熱情の意味が分かる気がしたんだ…」
「……」
朝霧は自分が卒業した後も、中学剣道の試合を度々見に来ていたらしい。後輩たちの様子ももちろんのこと、葵のことも探したそうだ。しかし当然ながら、葵はいなかった。諦めかけていたところへ、顧問から見せてもらった〝新入部員名簿〟に葵の名前があった。『また戦える!』そう思ったが、待てども待てども葵は部活に来ない。そんな時に、偶然この教室で葵を見つけたのだという。
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