55 / 58

高校編~第二話

「おーい、藤堂!今日もお呼びかかってんぞー!」  朝霧と空き教室で話をした次の日からずっとこの調子だ。放課後になると、毎日葵の教室にやってくる。用件は毎日同じ。最早、放課後の名物イベント化している気さえする。 「部活、出ないか?」  何度断っても、必ず来る。しまいには、同じクラスの子達に『いい加減出てやれば?』と言われてしまう始末。これでは俺が悪者みたいじゃないか。心外だ。 「……はあ」  特大の溜息を吐いて、朝霧と共に教室を出る。当の朝霧は葵がようやく部活に出る気になったとでも思ったのか、心なしか足取りすら軽く見える。部室に向かおうとする朝霧の腕を無言で引いて、あの空き教室へと向かう。 「……と、藤堂…どこへ行く!?よ、ようやく部活に出る気になったんじゃ「そんなわけないでしょう」」  あの日のように朝霧の言葉を容赦なく遮り、教室に着くと扉を閉め外から開けられないように、近くにあった箒で扉を固定する。 「……」 「先輩、何でそんなに俺と戦いたいんです?」  静かな教室で葵は朝霧にそう問うた。  自分は一年も前に剣道を辞めた身だ。あれ以来、練習だってしていない。防具だって今や埃を被って押入れの中だ。全盛期の自分より強い奴だって、全国にはたくさんいるだろう。朝霧はそういう相手とだって戦ってきたはずだ。 「……わからない」 「…は?」 「分からないんだ…。あんたとあの日試合をしてから、あの時の熱情が忘れられない。他のどんなに強い相手と試合をしても、あの熱情には届かない。だから、あんたともう一度試合をしたいとずっと思っていた。そうすればこの熱情の意味が分かる気がしたんだ…」 「……」  朝霧は自分が卒業した後も、中学剣道の試合を度々見に来ていたらしい。後輩たちの様子ももちろんのこと、葵のことも探したそうだ。しかし当然ながら、葵はいなかった。諦めかけていたところへ、顧問から見せてもらった〝新入部員名簿〟に葵の名前があった。『また戦える!』そう思ったが、待てども待てども葵は部活に来ない。そんな時に、偶然この教室で葵を見つけたのだという。

ともだちにシェアしよう!