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高校編~第三話
「やあああああああー!」
威勢のいい気合が道場に響き渡る。流石は強豪と言われるだけのことはある。
葵がここに足を踏み入れたのは、入部の挨拶をしに来たあの日以来だった。あの時は、ここまでの気迫はなかったように思う。そういえばあの時、レギュラー陣がいないと顧問が言っていたような気がする。
(そのせいか…)
「……」
部室の前までは来たものの気迫に押されてか室内に入ることが出来ず、ここに立ち尽くして早数分。
(しょーがいない、か。よし……っ)
「なんだ、藤堂。ここにいたのか」
意を決して一歩踏み出そうとした時だ。背後から見知った声が聞こえる。
「あ、秋葉先輩……な、なんで!?」
もうとっくに中にいるものだと思っていた。
「お前の教室に行っていた。せっかく俺が身を挺してまで、約束を取り付けたのに逃げられたら困るからな」
「……ちゃんと出るって言ったじゃないですか」
「信用ならんな」
「……」
(まあ、信用してもらえるようなやり取りはしてないけど…)
「さあ、さっさと行くぞ。お前は一年もブランクがあるんだ。一分一秒だって無駄には出来ん」
「ちょっ、ちょっと!?」
強引に腕を引かれて、秋葉と共に道場へ足を踏み入れる。
「……朝霧か。毎日ご苦労な事だな。来ない奴など放っておけば「連れてきました、先生」」
こちらを見ようともせず、他の部員達を見つめていた顧問の言葉を秋葉が遮る。
「……一年か」
「先生、こいつと今から試合をさせてもらえませんか」
「……!?」
顧問もそうだが、一番驚いたのは葵だ。練習していた他の部員達も手を止め、皆がこちらに注目する。
「そいつが、お前が戦いたがってた奴なのか?」
顧問はようやく葵をしっかりと見据え、上から下までまじまじと葵を観察する。
「分かった。ただ、ようやくお前が連れて来たやつだ。見させてもらう」
それを合図に、散らばっていた部員達がぞろぞろと葵達の周りに集まり始める。注目を浴びるのは嫌いだ。やっぱり部活なんて出るんじゃなかった、と後悔したけれどもう遅い。
「藤堂、早くしろ。胴着の着方でも忘れたのか」
あっという間にギャラリーが完成し、秋葉は着々と胴着を身に着け準備万端といったところか。葵の意思とは無関係に話が進んでいく。小さく舌打ちをして、どうにでもなれと半分自棄を起こしながら秋葉と一年ぶりに対峙する。
「…先に言っておきますけど俺、アンタと試合したあの時から一切やってないんで弱くても勘弁してくださいよ」
対峙しただけで分かる、秋葉の気迫。中学の時とは段違いだ。
「どうした、打ってこないのか?ブランクがあるから、俺に負けてもしょうがないと思っているのか?技術と一緒に、心まで腑抜けたのか?」
「……」
半分以上当たりだけれど、わざわざ口に出されると腹が立つというものだ。適当に負けて、陰に隠れていようと思っていたのに、葵のプライドがそれを許さなかった。
竹刀を握り直し、秋葉を見据える。葵のそれは、現役時代の光を取り戻したようだった。相手を斬り殺さんばかりの殺気。
「ふん…それでこそ、お前らしい」
嬉しそうにそう言うや否や、気合を放ちながら打ち込んでくるのを寸でのところで止める。
「容赦ないですね、先輩!」
「手加減するのは得意じゃないんだ」
なんとか秋葉の攻撃を交わしながら、言葉を交わす。そうしていれば、少しくらい隙が生まれるかと思ったがそう甘くはなかったらしい。
「……っ」
それからしばらく打ち合って、葵は床に膝をつく。前の葵なら、もう少し秋葉と渡り合えていただろう。やはり〝一年間〟というブランクは大きかったようだ。
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