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第72話
次の日も俺は無断で休んで、家に閉じこもっていた。
昼頃にピンポーンと来客を知らせる音がなって、またみっちゃんか八田か···それか他のメンバーが来たんだろうって、無視を決め込んでいた。
そうしていると、うるさいくらいドンドンとドアを叩かれる。
誰が来てるんだとカメラが付いているインターホン確認したら若がいて、焦って玄関のドアを開けた。
ムッとした表情の若、部屋に無言で上がって俺を見ると優しく笑って髪をガシガシと撫でてくる。
「開けてくれてありがとな。」
「···あ、えっと···」
「なあ赤石。何がそんなに辛い?寝ていればそれは治るか?」
「あの···っ、」
「一人で考えるのが辛いなら、誰でもいいから話してみろ。顔色悪い。飯は食ってるか?」
飯なんて、全く食ってない。
曖昧に笑みを返すと「食えないのか?」と聞かれた。
「いいんです、大丈夫だから」
「何が大丈夫なんだよ。」
「···ごめん、なさい」
「おい赤石、何謝って」
「ごめんなさい···もう、帰って···」
泣きたくなってしまうんだ。全部を捨ててしまいたくなる。みっちゃんと若の優しさも、八田の厳しさも、全部全部嫌になってしまう。
「お願いです。しばらく、休ませてください」
「赤石」
「何も、言わないで」
優しくされるとダメなんだ。
優しくしてくれるなら、それは燈人がいい。
座り込んで耳を塞いだ。何も聞こえないようにと見ないようにと目を閉じる。
肩にポンと温かい若の掌が置かれる。
片腕を掴まれて耳から手を離させられ、そのまま、そっと抱きしめられる。
「お前が今、何から逃げてるのかは知らねえが、それはお前に必要のないものなのか?それが欲しくて堪らないからこんなことになってんじゃねえのか」
「も、やめっ」
「いつものお前なら欲しいものは手にしようと、どれだけ不利な状況でも足掻いてるだろ」
「···やだっ」
「お前は弱くなった。でもそれはそうさせる原因を作ったやつがいけない。お前をこうしたのは誰だ」
ビクッと体が震えた。原因···それが何かわかっているけれど口に出したら泣きそうで嫌で首を横に振った。若はそんな俺に怒ろうとはしない。ただ優しく背中を撫でてくれる。
「大丈夫だ、お前はまた強くなる。でもな、この部屋にいるんじゃお前はずっと弱いままだぞ」
「若···」
「この部屋から出て、また辛くなったら帰って来ればいい。何度でもやり直せばいい」
「でも···」
「誰も、頑張ってるやつを咎めたりしねえよ」
俺から離れた若は手を差し出して「な?」と首を小さく傾げた。
「何も、考えたくない」
「何も考えなくていい」
「今は、人と話すのも嫌だ」
「俺ともか?」
首を振ってそれを否定すると嬉しそうに笑って俺の手を掴む。
「一度外に出よう?俺の部屋で俺と一緒にいよう。誰も来ないようにしてやるから」
「···迷惑じゃ、ないですか」
「そんなことねえよ!俺はお前と一緒にいると楽しいぞ」
ひんやりとしていた心がだんだん温かくなる。若の手を掴み返してゆっくりと立ち上がった。
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