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第76話
***
多分これは夢の中。
ベッドに横たわり起きる気配のない礼央と、その隣で泣き崩れてる母さんと、母さんの後ろでボーッと礼央のことを見てる小さい頃の俺。
髪の色はまだ暗い茶色。
幼い俺はその時何を思ってたのか。そんなどうでもいいことはもう忘れてしまった。
ていうか、もうこんなことを覚えていたくなくて無意識にこの記憶に蓋をしていた気がする。
どうして弱ってる時に限ってこういう夢を見ちゃうんだろう。
目を閉じて次に目を開ける時は夢から覚めて現実に戻っていたいと願う。
「───かいし、赤石」
「ん···」
トントンって軽く叩かれ目を開けたら願ってた通り現実だった。若がそこにいて、安心する。
「もう夜だ、点滴も終わったしどうする?家に帰るか?」
「···ぁ、」
「一人が怖いなら俺もお前の家に行くし、ここにいてもいい」
「ん、ぅ」
起きたばかりでうまく聞き取れなくて、喉が乾燥してるのかな、
話すこともできなくてイヤイヤって首を振ってるとトラが来て水を飲ませてくれる。ケホケホと咳をしてから、お礼を伝えようとトラを見上げると怖い顔に見えてトラから逃げて若に縋り付いた。
「嫌、だ」
「おい赤石···」
「いや」
手を伸ばしてきたトラ、それが怖くて若の胸に顔を埋め隠した。
トラの手に、ぽん、と頭を優しく叩かれる。そのまま撫でられて「大丈夫、大丈夫」ってゆっくり抱きしめられる。
「怖くない、あたしはあんたのこと傷つけたりしない」
「っ···はぁ、っ、ぐっ···ぅっ···」
「大丈夫だから、ゆっくり呼吸をして」
トラがスー、ハーって近くで呼吸するタイミングを教えてくれる。それと同じ時に呼吸をするといい子ねってまた頭を撫でられた。
「どうする?今日はここにいる?それとも帰る?」
「···ここに、いる」
「わかったわ、ハルにもいてもらいましょうね」
迷惑じゃないかなって若を見たら柔らかく笑ってくれてる。よかったって安心した。
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