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第81話
それから俺は現実を思い知った。
母さんは礼央の方を愛していて、俺のことなんて正直どうでもよかったんだろう。
俺への態度が冷たくなって、夜になると啜り泣いていつも「あんたならよかったのに」と俺に向かって言葉のナイフを投げつける。
そうか、俺は母さんに愛されていなかったのか。いや、礼央を愛すついでに俺のことも見ててくれたみたい。
「俺、生まれない方がよかった?」
ずっと、聞きたかった。
ついでの俺は生まれてきて良かったのかって。母さんは固まって俺を見て涙を流す。
「そ、んなわけっ···、ご、ごめんなさい···あなたも、辛いのなんて、わかってるのにっ···」
そうやって言ったくせに。
それでも母さんは俺のことを礼央と同じようには愛してくれなかった。
高校一年の時、家を出る事に決めた。
だって母さんは俺といると辛そうだから。
「俺、家出るね」
「···わかったわ」
「もし、困ったことがあったりしたらここに電話してね」
「···そんなの、いらない。捨ててちょうだい」
連絡先を書いた紙、捨ててって言われたけど、母さんが困った時は助けてあげたいと思う。
めげずに母さんの前にその紙を出す、そしたらバンッとうるさい音を立てて母さんは立ち上がりその紙を千切ってゴミ箱に捨てた。
「捨ててって言ってるでしょ!!いらないのよ!!困ったとしても、あんたに助けられるなんて嫌っ」
「母さん···」
「出て行くんでしょ!早く行きなさいよ!!礼央も、あんたも私を捨てるのよ!!」
「違う」
違う、礼央は母さんを捨ててなんかない。
最後まで生きようって頑張ってただろ。その姿を一番知ってるのは母さんな筈だ。
なぜだか目に涙が浮かんだ。拳を握り母さんに怒鳴るように言葉を吐く。
「俺は、そう思われても仕方ない。でも礼央はそうじゃない。母さんは一番それをわかってるだろ。」
「···そん、なの」
「礼央は最後まで母さんの隣で生きてただろ。母さんだって礼央が笑ったら笑顔になってた。」
「っ、」
「礼央の事をそんな風に言うのは俺が許さないよ。···でも、ごめんね。俺は礼央も、母さんも助けられなかった。···さよなら」
母さんに背中を向けて外に出た。
嫌なくらいの青空が俺を見下ろしてる。
「···笑え」
礼央みたいに、俺が笑ったら誰かに笑みが移るくらいに、優しくて暖かい笑顔で。
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