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第83話

フラフラって街に出たけどどうしよう。ここからずーっと行けば海があったっけ? 見知った顔が何人か、俺に会って声をかけてくるけど全部無視をした。ごめんねなんて思いながら。 「──赤石さん···?」 結構な距離を歩いた、足が痛いや。 ふわふわした頭で目の前に広がる赤い海を見つめる。夕焼けが反射してキラキラと光ってる。綺麗だなぁって海に片足を突っ込んだ。 「冷た」 そうか今はまだ夏じゃない。この温度を気持ちいいと思えない。 「気持ちいいって思いながら、死にたかったんだけどなぁ」 あれ、どっかで聞いたけど、本当に死にたい奴ってそんな事考えないで突っ走っていくっけ。じゃあ俺は本当は死にたくないのか···? 「ううん、違う」 ずっと死にたかったんだ。礼央がいなくなった日からずっと。やっと待ち望んでた日が来て···落ち着いてるんだすごく。 「俺が、消える時俺は幸せになるのかも」 もう片方の足を海の中に突っ込む。 もう慣れたからか冷たいとは思うけどさっき程ではなかった。 ゆっくり水の中に沈んでいく自分。 怖いとは思わない、寒いとも思わない。 その先にある無を求めてただ足を動かした。 ぴちゃ、ぴちゃって水音がなる。 それがなぜかだんだんと激しくなってきて。 「───っ!」 突然背中にドンッと何かが当たった。ビックリして振り返るとそこには燈人がいて、本能的にダメだ。と思って腹に回されていた腕を解こうと暴れまわる。 「離せっ!」 「おい!」 「離せってば!!」 「真守!!」 肩を持たれ燈人の方に無理矢理振り返させられた。燈人の奥、岸に見えるのは浅羽組の幹部たちと幹部補佐である、俺とそんなに仲のよろしく無い、鳥居。 「帰ってこい」 「っ、はぁ?何、言って──···」 「全部終わった。」 「何がっ」 「俺たちを、認めてくれた」 強く抱きしめられる。 言葉の意味はわからなかったけど燈人の暖かさに涙が出た。 「俺のところに、帰ってくるよな?」 有無を言わさないその言葉。嬉しいけど、今は何も言えなくて。 とりあえず上がるぞって手を持たれ岸に向かって歩かされる。俺はそっちに行くつもりなんて無かったのに自然に足が動いた。 「怒ってる、かなぁ···?」 「誰が」 「みんな。俺、もう、嫌で···」 「皆怒ってるだろうな。お前の事が心配だったから」 「怒られるの、すごい、嫌いなんだよ···」 もう少しで岸に上がる。そんな時に足を止めた。だってなんか、ここから先に行くのが怖い。 「俺、帰れないよ···」 「ん?」 「帰ったら、もっともっと、欲しくなっちゃう。もっともっと幸せになりたいって、思っちゃうもん···」 「お前が幸せになって何がいけない」 「俺は、ダメなんだよ···助けてあげられなかったのに、俺だけ幸せになっちゃ」 燈人の手を離した。最後に精一杯笑ってお別れしようって、一度俯いて顔を上げる。 「んっ!」 顔を上げると同時燈人にキスをされた。 じんわりと広がる熱に、涙が止まらなくなる。 「お前は幸せになっていい、1人で全部を背負わなくていい」 「···と、り」 「お前を幸せにするのは俺だし、俺を幸せにするのはお前だ。お前の背負ってるものは俺も一緒に背負ってやる。だから、な?」 両腕を広げてそこで優しく笑いながら待ってる燈人。ありきたりの言葉、それでも俺はすごく嬉しくて。吸い込まれるようにその腕の中に入る。 「ほら、上がろう」 水から出て、砂の上に立つ。みっちゃんや早河、八田に中尾に鳥居に···なんて言われるのかがすごく怖くて燈人から離れないでずっとくっついていた。

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