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第89話

「真守、こっち来い」 「ん···」 お風呂から上がってボーッとしてると燈人に呼ばれる。近づくと立てた膝の間に座らせられた。 後ろから抱きしめられて、触れてる部分がじんわり暖かい。顔だけ振り返りキスを強請ると触れるだけの優しいキスをしてくれた。 「なあ、お前の体調が戻ったら···俺の親父に会ってくんねえか?」 「いいの?そんなことして。俺殺されない?」 「もしそうなったとしても、俺が守るよ」 「···そんなの、いいよ」 燈人にもたれてゆっくり目を閉じる、トクトクって静かに燈人の心臓の音が伝わってくる。───ああ、俺今すごく幸せだ。 「······俺ね、弟がいた。病気になって死んじゃったんだ。俺、何にもできなくて···弟が死んでから、母さんに愛されなくなって、誰からでもいい、愛が欲しかったんだ。だからいろんな人と関係を持った。愛されてる時は幸せだったから。」 静かに、何も言わないで俺の話を聞いてくれてる燈人。ゆっくりお腹に回された腕、その腕に触れると少し安心できた。 「でも、燈人が一番だね、一緒にいるだけで幸せって思うよ。だから、燈人と離されるかもしれないって思った時、それなら自分から引いた方が誰にも迷惑かからなくていいって思った。けど···そんなこと、なかったね。そっちの方が···たくさん、迷惑、かけちゃった···」 目にじんわりと涙が浮かんだ。 息がだんだんと荒くなっていって燈人が大丈夫だって優しく言ってくれるのに首を横に振る。 「謝りに行かないと···若に、一番、謝らないと···」 あの人に燈人のいない間一番助けられた。 一番、迷惑をかけた。 「···俺も、一緒に行っていいか?」 「え···?」 「俺も、浅羽の若頭に会って、謝ってお礼を言わなきゃいけない」 「何、で···?」 「俺がお前を不安にさせるようなこと言わなくちゃこんな事にはならなかったろ。それに一番謝らないと···ってことは、一番お前のことをそばで見ててくれてたんだろ」 「···う、ん」 「俺も一緒に行く」 「うん」 不安だった気持ちがスーッと晴れていった。

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