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第90話

次の日の朝、俺は玄関に立って震えていた。 若に今日恋人を連れて会いに行くって言って、さあ出かけようって玄関に来たら動けなくなった。 あれ、海に行った時は靴をはけてすんなりと外に出れたのに、今はなぜか怖くてそれができない。 燈人が俺の手にそっと触れて顔を覗き込んできた。 「怖いのか?」 首を縦に振る。何が怖いのかはわからない。後退りして逃げようとしたら掴まれてた手に力が込められた。 「こわ、い」 みっともなく声が震える、そこに座り込んで行きたくないと小さく訴えた。すると優しく抱きしめられて背中を撫でられる。 「一回リビング戻るぞ」 「外、行かない···?」 「外に行かねえと浅羽に会えないだろ」 「···だよね」 立ち上がってリビングに戻りソファーに座った。隣に座る燈人が俺の肩を触り自分の方に寄せる。そうして燈人にもたれるとザワザワしていた心が静かになっていった。 「ごめんね、俺···」 「謝ることないだろ」 「ううん···燈人に迷惑かけて、ごめん」 「迷惑なんて思ってねえよ」 だから、謝るなってキスをされる。その熱が心地よくて舌を絡めもっともっとと強請った。こんなことしてる時間はない、若に会いに行くって約束した時間にはもう間に合わないだろう。 「ふ、っん···」 「終わり。──···多分、間に合わねえから連絡しとけ」 「う、ん···」 「···家から出るの、怖いかもしれねえけどこれができたらきっとこれはお前の自信になる」 「うん」 「俺も一緒にいるから、な?」 うん、って返事の代わりに燈人の手を握った。立ち上がって玄関に行ってバクバクとうるさい心臓を無視して靴に足を入れる。それから深呼吸して燈人の腕にしがみつきながら家を出た。

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