95 / 242
第95話
「燈人教えてあげる」
「·············」
「これはおにぎりじゃない」
「おにぎりだ」
「俺の知ってるおにぎりはこんなんじゃないよ、これおにぎらずだよ。」
「食わないのか」
「食べる」
いやただ、おにぎりだと思って待ってたら、出てきたのがおにぎらずでびっくりしただけなんだ。
「前に流行ったよね。おにぎらずって何だーって。正解はもっとちゃんとしたやつだけどこれもありだと思うよ俺は」
「一回しばくぞ」
「嘘じゃん、普通に美味しいよ」
形は変だけど味に変わりはない。久しぶりのご飯は美味しくて何だか涙が出てくる。
「そんなにまずいかよ···」
「違う、美味しくてね」
燈人を見てニコリ笑うと燈人は俺から視線をそらして「よかったな」と小さく言った。
「これ食べたらさ、俺、外に行く練習してくるね」
「俺も行く」
「えー?何もしないんだよ?そこら辺プラプラしようと思ってるだけで」
「今はお前一人じゃ心配だから」
「···そう、ありがとう」
でも、燈人と二人で出かけるなら、もっと楽しいところに行きたいよなぁ。
「行きたいところ、ある?」
「そこら辺の散歩じゃねえのか?」
「どうせなら楽しいところ行きたいじゃん?」
そうだなぁ、って悩んで唇を軽く尖らせる燈人。何それすごい可愛いと思って手を伸ばし唇をムニッと掴んだ。
「悩んでると唇尖るんだね」
「んんん」
言葉になってないけれど、きっと離せって言いたかったんだろう。手を離してふふっと笑うと不満そうにしてたくせに燈人も柔らかく笑った。
ともだちにシェアしよう!