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第96話

結局今日はプラプラ散歩するだけになったんだけど··· 「は、」 「休憩するか?」 「大丈夫だよ」 動悸が激しくて息をするのが少しだけ苦しい。人とすれ違うたびにこれだ、困った。 「でも外にはすんなり出ることができたし、一歩進めたな」 「···うん」 「どうする?もう少し歩いたら帰るか?」 「うん、帰る。···ねえ、燈人」 「ん?」 「ありがとう」 周りに誰もいないか、そんなの関係なしに燈人にキスをした。慌てた燈人は俺の肩を掴んで周りをキョロキョロ見回す。 「あそこに人がいるのが見えねえのかテメェは!」 「だって、キスしたくなった」 「···あのなぁ」 髪をかいて溜息を吐いた燈人。あれ、怒っちゃったかな。 「怒った···?」 「怒ってねえけど···外ではあんまりすんな」 「はーい、ごめんなさい」 「別に嫌なわけじゃねえんだ。···ただ、俺の立場が立場だから。こういう所を敵に見られて、お前が危険な目に遭うのは嫌なんだ。」 その言葉を聞いて、燈人の手をギュッと握り小さく笑った。 「家でたくさんしてね」 「わかったから、手繋ぐのとかもあんまりすんなって···」 隠れてコソコソ。それも俺たちだけ。って感じがして少しだけ楽しいかも、なんて危機感の全くない事を思った。

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