98 / 242
第98話
それから数日経って、俺は久しぶりにスーツを着てた。髪もちゃんと整えて地味に緊張しながら燈人の前に立つ。
「これで、いいよね」
「いいだろ。ていうか、いつもの感じでよかったんだぞ」
「それは違うと思う」
そう、今日俺は燈人の親父さんに会いに行く。いつも通りの燈人が俺の姿を見て眉を寄せる。
「いつもの方がいい」
「何で」
「···なんか、仕事って感じがして嫌だ」
「意味わかんない」
軽く肩を叩いて「さあ、いくか」って燈人が立ち上がった。
「殴られそうになったら守ってね」
「ならないと思うけどな」
「一応じゃん。正直俺、怖いもん」
燈人に抱きついて額をグリグリと肩に押し付けた。よしよしって髪を撫でてくれるけれどまだやっぱり少し不安で。
「···好きって、言って?」
「好きだ」
「もっと」
「好きだ、愛してる」
キスをしてくれる燈人に対する、愛しいっていう感情が、怖いっていう感情を消し去ってくれた。
ともだちにシェアしよう!