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第99話

桜樹組は厳つかった。門をくぐると若頭である燈人に全員が頭を下げて「お疲れ様です」と声をかけている。 燈人の後ろにいる俺は何だこいつという様な目で見られて居心地が悪い。呼吸が少し荒くなるけれどそんな俺に小さく「大丈夫」って燈人が言ってくれた。 「若!···と、赤石」 「あ、いつぞやの羽島くん」 燈人の後ろから羽島くんに向かってひらひらと手を振る。 睨むように俺を見たあと、ずかずかと大股で歩き寄ってきた羽島くんは俺を壁に押し付けて、俺が逃げられないようにと膝を足の間に突っ込んできた。 「え、な、何」 「あんた、若がどんな思いで毎日必死になってたか知ってんのか。なのに1人楽になろうとしやがって···」 「おい羽島」 「若は黙っててください!」 羽島くんは綺麗な顔をしてるからこうやって睨まれたりすると凄く怖いと思える。綺麗な人が怒ると怖いんだよなぁ。 「ごめんなさい、俺も俺で思ってることがあって···」 「そんなこと知らねえよ。もしあんたがいなくなったら若はどうなる···とか考えなかったのか」 「…考えなかったね」 そう言うと更に怒った顔をしてジリジリと距離を詰める。もう鼻と鼻が触れそうだ。 「おいもうやめろ。」 「チッ···、はい」 燈人に言われて仕方なくどいてくれた羽島くん、俺は逃げるように燈人の後ろに立った。 「羽島くんってあんな人だったんだね···俺なんかドキドキしたよ」 「あ?」 「あ、違うよ?好きのドキドキじゃないよ?何か綺麗な顔にあそこまで迫られると怖いじゃん?」 「さっさと行くぞ」 燈人に手を掴まれて廊下を歩く。うーん、もしかしてちょっとだけ不機嫌になっちゃってる? ···いや、そうじゃないか。ここでの顔を大切にしてるんだね。若頭だもん、しっかりしてないといけない立場だ。 でもやっぱりそれは俺にとって、ちょっと寂しい。

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