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第101話

「優しいね、燈人のお父さんは」 「ああ、まあ···自慢はできるな」 帰り道、車に乗ってそんな会話をする。 何だか自分の中は真っ黒でお腹の中でそれがぐるぐるしてるみたい。 燈人に当たっちゃいけないのはわかってるけどどうしても口調が尖ってしまう。 「羨ましいよ」 だからそれ以上はもう話さないでおこうって口を閉ざす。 でも燈人は優しいからそんな俺を心配してくれるんだけど、それすらも黒いそれを倍増させる原因になる。 「大丈夫だから、心配しないで」 そう言うと燈人は何も話さなくなった。 家に帰ってからもいつもより会話は無いし、俺のせいだってわかってるのにそれがまた嫌になってくる。 「燈人」 「何だよ」 「何か話してよ」 「はあ?」 明らかに何言ってるんだ、みたいな顔をした燈人にクッションを投げる。 それを避けて「どうしたんだよ」って言いながら近くに来た燈人にやだやだって首を振った。 「何か、わかんないけど、イライラする」 「親父に会うの、嫌だった?」 「違う。いい人だったし、本当に。···でも、なんか···」 「落ち着け。」 強く抱きしめられて背中をポンポン撫でられて燈人の肩に顔を埋める。 「何が嫌だった」 「···俺と、全然違う」 「お前と、誰が?」 「···燈人が」 こんな恋人、俺なら絶対に嫌だ。 だって意味もわからずに怒り出して、泣いて、すぐに辛くなる。それをいちいち面倒見るのはきっとすごいしんどい思いをする。 「お前と俺の何が違った?」 「···親に、愛されてる。俺は、親に愛されてなかったから、羨ましかった」 燈人はそんな俺に何も言わないでずっと抱きしめてくれて、そうされてると気持ちが落ち着いて何で八つ当たりしてるんだ自分は···って自己嫌悪に陥った。 「お前が今まで、親からもらえなかった分の愛情は俺と、俺の親父たちがいっぱいやる。親父はお前のこと息子だって言ってただろ?それにきっと、浅羽の組長さんもお前のことを息子だと思ってるさ」 「···そう、かなぁ」 「きっとな」 顔を上げて、触れるだけのキスをした。 そうだったらいいな、親父が俺のこと息子だって言ってくれたら。

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