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第125話
帰らないと。散歩に行ってくるとか言って1時間はとっくに過ぎていた。
浅羽組から桜樹組までは少し距離があるから、桜樹に着くのは歩いていけば30分くらい余裕でかかっちゃう。
どうせそれくらいかかるならゆっくり行こう。
いつもは見ない道端に咲いてる小さな花を見たり、可愛らしい建物を見たり。そういうゆったりした時間は最近あまりないからすごく楽しい。
「ただーいま」
「遅え」
燈人の部屋に入ってただいま。というとそう言って怒られた。
地べたに座ってる燈人の背中に倒れ込むみたいに凭れかかってお腹周りに腕を回すとその手を軽く掴まれてやんわりと離すように手を引っ張られる。
「どこ行ってたんだ」
「ん?色んなところ。」
「そうか、何もなかったか?」
「うん、大丈夫だよ」
そう言って笑うと燈人も薄く微笑んでキスをしてくれた。嬉しくて触れるだけのキスを何度かしてると気持ちが昂ってきて堪らず舌を絡めて燈人を押し倒した。
燈人の上に乗って服の裾から燈人の肌に触れる。その時に傷があることに気づいたみたいで、燈人は慌てて俺の肩を掴んで起き上がらせた。座ったのはいいけど熱は静まらないから燈人の首に舌を這わせて喉仏をかぷりと噛み付く。
「っ、やめろよ」
「なんで?」
「いいから、ちょっと離れろ」
言われて納得してないまま燈人から離れた。
燈人は息を吐いて俺に向き直る。
「話がある」
「何さ」
「···お前、組員に何もしてねえよな?」
「してないよ」
むしろされてる方なんだけど。
何?と睨むように燈人をみたら「よかった」と安心したような表情でまた薄く笑った。
「何?何かあったの?」
「いや···お前は気にしなくていい。」
「何それ。教えてよ」
そう言って燈人に迫ると俺から目を逸らして「悪いな」と一言。
「教えて!」
「···じゃあ教える代わりにお前だって教えろ。怪我してるのはわかってんだぞ」
「え、と」
「なあ、誰にそんなことされてんだ、何でやり返さないんだ。」
燈人から目を逸らしたのは今度は俺の方だった。言ったら燈人に迷惑がかかってしまう。目を逸らしたままでいたら肩をがしりと掴まれて痛みで体がビクッと震えた。
「ここも、怪我してる」
「痛いよ」
「正直に言ってくれ。頼むから」
苦しそうな辛そうな顔でそんなこと言われちゃ···って思ったけど燈人に迷惑をかけるわけにはいけない。
これは、自分で解決するから。
「大丈夫、何でもない」
そう言って笑った。
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