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第169話

お風呂が沸くまで少し時間がかかる。その間ちゃんと燈人は寝ていてくれて、その隣に俺も寝転んだ。 「真守」 「何?」 薄く目を開けた燈人は俺に抱きついて離れない。いつもは逆なのに···とクスクス笑ってしまう。 「···行くな」 「どこに?」 「どこにも」 そう言えばさっきも同じ言葉を言われたなぁ。 熱があるくせに強い力で抱きしめられてそう言われれば頷くしかないし、そもそもどこにも行かないし、何を不安に感じてるんだろう。 「どうしたの、何か怖いの?」 「···何でもない」 何でもない、そういう燈人にこれ以上問いかけても意味がない。よしよしと髪を撫でて何とか不安を和らげてあげようと試みるけど、こんなのでいいのかな。 「お風呂沸いたら一緒に入る?」 「ん」 「じゃあ沸いたら起こすから、ちょっと寝てなよ」 眠たそうに目を閉じる燈人の額に唇を落とした。

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