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第184話

結局その日、燈人は帰ってこなくて。 一人、ベッドに寝転がって眠って朝起きても一人だったことがショックで、俺もどこかにいこうかな、なんて思ったけどここで燈人のこと待ってなかったら···と考えたら怖くてソファーに膝を抱えて座ってた。 「テレビテレビ···」 あまりに音がないからテレビをつけた。寂しいことに変わりはないけど少しは紛れるはずだ。 平日の朝、いつもなら浅羽に行くのに今はいけない、また若や幹部たちに挨拶しに行かないといけないけど今はまだいいやって思ってる。 そうして一人でぼーっとしてると玄関のドアが開いた音がした。急いで玄関まで向かうと燈人がいて「おかえり!」って言おうとした。 なのに鼻についた嗅ぎ慣れない匂いのせいで言葉は出ずに、それどころか思わず一歩退いてしまう。 「ただいま」 「···お、かえり」 何も気にしてない風に部屋に上がってリビングに行きそのままソファーにどさっと座る燈人から少し距離をとった。 「どうした?」 「いや···」 昨日の様子と違う、いつもの燈人だ。 なのに胸がモヤモヤするのはその匂いのせい。きっと一度や二度は嗅いだことのある女物の香水の匂い。 呼吸が荒くなって自分の部屋に駆け込んで胸を押さえ「大丈夫大丈夫」と何度も繰り返す。 だってそうしないと意味がわからなくなって自分が自分でなくなりそうになるから。 「おい真守···?」 「だ、大丈夫だから!」 部屋の外から声をかけられる。 それはいつも燈人が俺を心配するときと同じ声音。だから余計わけがわからなくなってしまう。 女のところにいたの?何しに?何でそんなに匂いがついてるの?俺は必要じゃなくなったの? たくさんの疑問が頭を埋め尽くす。 とりあえず燈人は心配してるからって部屋を出たらすぐそこにいた燈人が俺の頬に手を伸ばして触れる。 ゾワリ、と背中に嫌な感覚が走った。 その手はもしかしたら女を抱いてきたのかもしれない。 「顔色悪いぞ」 その心配する声ももしかしたら女にも聞かせてきたのかもしれない。 「───ううん、大丈夫だよ。ちょっと頭が痛くなっちゃってさ!寝ようと思ったんだけど治った!」 もしかしたら燈人は俺だけのものじゃないのかもしれない。それなら捨てられないようにしないと。 他のやつに負けないようにしないと。 泣きそうになるのを堪えて平然を装った。

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