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第187話

「そいつは···俺のせいで死んじまった」 呟くみたいに言葉を落としていく燈人は小さく震えていた。それでも無理に話さなくていいよ。なんて事を言うことができないのは俺自身が早く楽になりたいから。 すごく薄情だけど自分が可愛いんだもん、仕方がない。 「里っていうんだ。」 悲しそうな目をしている、その里さんの事を思い出してるんだろう、目には薄らと涙が浮かんでいた。 「まだ高校生だった俺たちは付き合ってた。お互い本当に愛し合ってたんだよ。だからこれからもずっと一緒に生きていくんだって思ってた。···だけどそいつには姉貴がいて、そいつが俺はヤクザの息子なんだ、別れろって里に言ったんだ。」 「里さん、嫌だって言ったんでしょ?」 「ああ。···そしたら、その姉貴が、里の通ってる高校でヤクザの息子と付き合ってるって噂を流し出した。世間じゃヤクザなんてただ嫌われるだけだろ。里は仲良かったダチとも話せなくなって最後には一人になった。里の姉貴も親も、誰も俺たちを認めなかった。」 燈人がゆっくり目を閉じるとそこからツーッと涙が零れていくそれを拭おうとした手は届くことなく落ちた。今、俺が燈人に触れるのは何か、違う気がしたから。 「里はそれが怖くなっていったみたいでさ、でも俺とは離れたくねえって言ってくれたんだ。それに俺と会うときは里はいつも笑ってた、だからまだ大丈夫だって俺もどこか安心してたんだ。···でも、気付いたら里は自殺してた」 ズシリとのし掛かった重たいものに呼吸をするのが苦しくなる。 「お前のせいだって、里の姉貴にずっと言われてきた。何度も何度も謝りに行った、だからって里が戻ってくるわけじゃない。ただの自己満足でしかないんだけどさ。」 「そんなこと···」 「それで、何度目か謝りに行った日、里の姉貴に、突然···キスされた」 はぁ?と思わず顔を歪めた。 燈人のことを恨んでたんじゃないの? 「許してやるから、抱いてくれって言われた。俺はそれに従った。」 1つ1つの言葉が重たくてその里さんのことを思うと辛くて、拳を握る。 「羽島が来た日、あの日は里の命日だ。毎年その日に里の姉貴から連絡が来るんだ、早く来いって。」 「···羽島くんは、燈人を止めようとしたんだ?」 「ああ。でも、里の家族から里を奪った俺が、逃げるなんておかしいだろ」 「奪ってなんかないじゃん」 思わず本音が漏れて、途端燈人に胸倉を掴まれた。なぜか冷静なままの俺は燈人を見つめる。燈人の目にはまだ涙が浮かんでいた。 「奪ったんだよっ!!」 「違うだろ!!里さんが勝手に死を選んだんだ!!それを燈人のせいにする里さんの家族も、燈人も、おかしいよ!!」 「うるせえ!!」 ガッ、と頬を殴られる。 口内に血の味が広がってそれでも燈人のことを見続けた。 「里のことをバカにするなっ!!」 「バカになんてしてないだろ!!燈人に何も相談せずに勝手に一人で死んでいった里さんは、燈人に悲しみを植え込んだだけじゃないか!!」 言い返せば燈人はまた拳を振り上げる。殴られてもいい、俺のことを嫌いになってもいい、ただもうこれ以上その悲しみを燈人が1人で背負う必要はない。だってそれこそおかしい事だから。 また強く殴られる。鈍い音がした。 殴られた場所が悪かったのかだんだん意識が遠のく。 「俺が悪かったんだっ!!」 「燈人は、悪くないよ···」 そう呟いて意識が途絶えた。

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