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第207話

その日の夜もあいつから電話がかかってきた。 その度にストン、と心がどこかに落ちるかのように何も考えられなくなる。 「今日は来るでしょ?」 「···わかった」 電話を切って後悔するのは今日に始まったことじゃない。けれど一度口にしたなら行かなきゃならない、適当な服に着替えて玄関に向かう。 その時「行かないで」という聞き慣れた真守の声が聞こえてバッと後ろを振り返った。誰もいるはずないのに、頭を抱えてしゃがみこむ。 苦しいのは俺じゃない、真守だ。 そう思った途端、何故か鼓動が速くなって急いであの女のところに向かう。 玄関を乱暴に叩いて呼び鈴を鳴らした俺に慌てたように出てきた女、胸倉を掴み言い聞かせるように言葉を落とす。 「もうやめる」 「は?」 「お前を抱く意味が無くなった」 「···それは里を捨てるってこと?」 その言葉に何故か口角が上がっていく。 口の端だけで笑った俺に嫌そうに眉を寄せる女。 「もう、里はいないからな」 いない人間を愛しすぎて今目の前にいる大切なやつを守れないんじゃ意味がない。里もきっとそんなことを望んではいないだろう。 「殺してやる」 「何でもいい、俺はもうお前の前に二度と現れない」 踵を返し元来た道を歩く。少し気持ちがすっきりした、あとは真守に───··· ドン、と衝撃が走って振り返る、血に濡れた鋭く光るそれを握る女は笑っていた。 「殺して、やるんだから···」 「っ、俺はこんなんで死なねぇよ」 女の手から俺を刺した包丁を取り上げて地面に伏せさせ取り押さえる。組に電話をして早く回収しに来るようにと言うと10分後くらいに車を回してきた。女はギャーギャー何かを叫んでいるが来てくれた錦が首裏に手刀を落とすと気を失って静かになる。 「若!血が出てる!」 「こんなもんどうでもない」 「車···汚れる···」 そう嫌そうに言う佐助。そうだなぁ、と苦笑を零せば「ごめんなさい」と謝られてからパシッと顔を叩かれた。 「すっきり、した···」 「···ああそうかよ」 俺別に何もしてないのに。 まあ迷惑かけたしいいか、と適当に流してると早く乗って。と言われた。車汚れるって言ってたくせに。 「とりあえず病院でいいスか?それとももうそのまま組に行きます?そこで医者に診てもらう?」 「ああ」 「はーい、全速前進ー」 血が流れ出てるのがわかる、濡れる感触が気持ち悪い。 頭がちゃんと動かない、血を流しすぎたか。 「寝る」 「はーい」 重たくなる瞼、少しすると完全に意識は夢の中に落ちていった。

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