深いキスに頭がぼぅっとしてくる。 　唇が離れそして、視線が絡む。 　シュウさんはとても優しい笑みを浮かべて俺を見つめていた。 　なんなんだ、これ。 　俺、男なのに……男とキスして悦んで、しかもオナニーまでして。 　そして俺がずっと感じていたどうしようもない渇きはかなり満たされている。 　どういうことだよ？ 　なんで俺、こんなことして満足してんだ？ 「漣君、もっと欲しい？」 　その問いに、俺は頷くことも首を横に振ることもできなかった。 　欲しい。だけど……これ以上何かしたら戻ってこられなくなりそうで怖い。 　迷っていると、手が優しく俺の背を撫でていく。 「そうだよね、初めてだろうしこんなの戸惑うよね。でもこうして時々発散しないと、うつ状態になるかもしれないから、だから漣君、またここにおいで」 「……また……ここに……」 　そう言われると、心が揺らぐ。 　嬉しさと戸惑いが心の中でひしめき合う。 「僕は君を傷つけないよ。嫌がることは決してしないから」 「う、あ……そ、それよりあの……教えてもらってもいいですか、俺が何なのか」 　求められて嬉しいとか思っている場合じゃない。 　俺が知りたいのは……今の俺の状態だ。 　俺の言葉にシュウさんは苦笑して小さく首を傾げた。 「僕は医者じゃないし、だからそれを言うのはどうかなと思ったけど……でも聞きたいよね」 「当たり前じゃないですか。俺は……何が何だかわからないんだから」 　でもひとつ、可能性を知っている。 　だからそれを知るのは怖い。 　でも……知らないでいたらもっと怖いだろう。 　俺は大きく息を吸い、もう一度シュウさんに尋ねた。 「シュウさんは俺の状態を何だと思うんですか？」 「……Ｓｕｂだと、思うよ。だから僕は君に共鳴したし、君を欲しいと思った」 　そう告げてシュウさんは俺を身体をぎゅうっと抱きしめた。 　Ｓｕｂ…… 　言われた言葉を俺は自分の中で繰り返す。 　俺が……Ｓｕｂ？ 　今まで検査で引っかかったことなんてないのに。 　なんで俺が……Ｓｕｂなんだよ？ 　って、待てよ？　今シュウさんは共鳴とかなんとか言ったよな。欲しいとか…… 「ってことは……」 「僕はＤｏｍなんだよ」 　あぁだから俺……この人の言葉に、声に逆らえないのか。 　自分の中で点と点が繋がり答えが出たことですっきり感と、言いようのない不安が押し寄せてくる。 　 「本当に俺……」 「僕は医者じゃないから、診断なんてできないよ。だから確かめるには医者にかかって自分の特性とうまく付き合えるようにしていくのがいいと思うけど」 　正直、自分がＳｕｂじゃないかって可能性はずっと頭の中にあった。 　でも俺は詳しくＳｕｂについて知っているわけじゃないし、医者にかかって答えを出すのが怖かった。 　Ｓｕｂは誰かに支配されて喜ぶ性質を持っている。 　……そんなの俺が認められるかよ？ 　でも今、俺はこの目の前にいる初対面のＤｏｍに命令されて喜び、望まれることに快感を覚えている。 　その事実に俺は戸惑っている。 「君が言っていたどうしようもない渇きは、今も感じる？」 　その問いに、俺は首を横に振る。 　認めたくはないけど…… 「そう、ならよかった。君が満足してくれるなら嬉しいよ」 　やばい、なんでシュウさんが嬉しいって思っていて俺まで悦んでるんだ？ 　俺、本当にＳｕｂ……なのだろうか。 　頭の中がぐっちゃぐちゃだ。 「急にＳｕｂだと言われたって受け入れられないよね」 　シュウさんの言葉に俺は小さく頷く。 　どうしたらいいんだ俺…… 「もう時間も遅いし、家まで送っていこうか」 「え……」 　思わずでた哀しげな声に自分でも驚く。 　ひとりにしてほしくない、と言う不安と恐怖が心の中に広がっていく。 　でも初対面の人に、ここにいたいなんて言えるかよ？ 　あー、俺、どうしたらいいんだよ？ 　わけわかんねえよ……！ 　ぐるぐると考えていると、シュウさんが言った。 「そんな悲しそうな顔されると僕の決意が揺らいじゃうよ。今日初めて会ったから、これ以上何かするのはどうかなって思ってるのに」 「これ以上って……？」 　さすがに何か、の意味が分からず俺は首を傾げて尋ねる。 　ＤｏｍとかＳｕｂとか、何をするのかって知識が俺の中にほぼない。 　だからシュウさんが何をしたいのか正直よくわからなかった。 　 「とりあえず帰りたくないのなら泊まっていく？」 　俺の問いへの答えの代わりに言われた言葉に俺は目を大きく見開き、そして頷いて答えた。 「じゃあお風呂に入ろうか。だから漣君。『下りて、準備をしよう？』」 　言われて俺は、シュウさんの膝から下りて立ち上がり、彼に着いて風呂場へと向かった。