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第5話 覚えてない

 気が付くと、暗い部屋の中にいた。  知らない匂いに戸惑いそして、ゆっくりと頭を動かす。  そして隣りに知らない男が寝ていた。  ……って、え?  えーと、昨日何があったんだっけ……?  合コン行って、抜け出したあと知らない男に声をかけられて飲みに行って……  そこで酒飲んで……って、その後の記憶があやふやだ。  シュウさんだっけ。ちょっと変わった名前の人で大学の先輩で。  少しずつ昨日の事が鮮明になってくるが、なんで俺が裸で昨日初めて会った男と寝てんのか理解できねえんだけど?  何したんだよ俺……こんなこと初めてだぞ、おい。  風呂入った気がするけどその後の記憶がない。ってことは風呂で寝落ちした?  そんなに疲れてたのかよ? っていうかよく知らねえ人ンちで寝落ちとか俺やっぱどうかしてる。  でも、ここ一か月感じていた渇きはなくなっていた。  ……何したんだっけ。  ここに来てからの記憶があいまいだ。  今何時だろ? 暗いし、たぶん夜中だよな。  スマホ……はここじゃねえよな。  寝てるところ起こしたら悪いし。そう思い俺は時間を確認するのは諦めて目を閉じる。  知らない人の家だってのに疲労の方が大きかったらしく、俺はあっという間に寝落ちして、次に目が覚めたときには室内が明るくなっていた。  目を開けて視線を巡らせると、隣りに横たわっているシュウさんと視線が合った。  眼鏡をかけていない彼は、微笑み言った。   「おはよう。気分はどう?」 「あ……お、おはよう、ございます……」  気分はって言われても……  どう答えようか悩んでいると、シュウさんは言った。 「お風呂入って出た後、裸でソファーで寝ちゃったから。ここまで運ぶの大変だったよ」  まじかよそれ。 「全然覚えてない……」  呻くように言うと、シュウさんは目を瞬かせる。 「そうなの? どこから覚えてないの? お風呂に入った後の事、それともその前の事から?」 「えーと……」  ここに着いて、なんか話したよな。  だめだ、ぼんやりしてあんまり思い出せない。  でもなんか心地よくって気持ちよかった気がする。 「えーと、ここに着く前後からがあんま思い出せなくて……」 「まあ、けっこう飲んでいたしね。あんまり酔ってる風じゃなかったけど」  合コンでビールを二杯飲んで、シュウさんと会って二杯は飲んだ気がする。  やべえな、俺、酒には弱くも強くもないはずだけど、たった四杯で記憶なくすとかあるかよ? 「覚えていても覚えていなくてもどちらでもいいけど、ねえ、漣君、一度病院には行った方がいいと思うよ」 「病院……?」  そういえばそんな話をしたような。  でも病院に行くのは正直気が進まない。  っていうか何科に行けばいいんだよ? 渇きを満たす方法なんて誰に聞けばいいんだよ?  内科? 心療内科?  ぐちゃぐちゃと考えていると、手が頬に触れてシュウさんの顔が唇が触れるか触れないか、の距離まで近づく。  驚き目を見開くと、彼は微笑み言った。 「ねえ今日はどうする? このまま帰る? まだここにいる?」  その言葉に心臓が跳ねる。  ここにいたい、って気持ちが俺の心の中で生まれていき、その感情の存在に俺は戸惑い驚く。  いてどうすんだよ? 何するんだよ? 「う、あ、か、か、帰ります」  上ずった声で答え、俺はシュウさんから視線を外した。やばい顔が熱い。なんでこんなに恥ずかしいんだよ? 「まあそうだよね。ねえ、帰る前に連絡先、教えてね」  と言い、彼は俺から手を離して身体を起こした。  結局、シュウさんの家で朝メシを喰い、連絡先を交換して家に着いたのは午前十時過ぎだった。  スマホには昨日合コンに行ったヒロからメッセージが来ていた。 『途中で帰るとかお前まじ大丈夫かよ?』  大丈夫かどうかと聞かれたら大丈夫じゃなかった。でも今は落ち着いている。   『大丈夫だよ。で、昨日の合コンどうだったんだよ?』  とだけ返したけれど、返信は来ていない。  まあ、土曜日だしたぶんあいつバイトだよな。  そう思い俺はベッドに横たわって天井を見つめた。  シュウさんに会って、ここ一か月感じていたどうしようもない渇きは解消されたけどでもなんでだよ?  昨日何話したんだ、俺。 『……僕はDomだよ』  っていう言葉が頭の中に響く。  あの人Domだって言ってたような気がする。そして俺は……  いいや、ンなわけあるかよ。  なんで俺がSubなんだ?  Subっていわゆるマゾってやつだよな。  俺にそんな嗜好はねえよ。構ってほしいとか、苛められたいとかそんなこと思わねえし…… 『いい子だね、漣君』  そんなシュウさんの言葉を思い出し、身体が熱くなってくる。  何でだよ? 俺、ハタチだぞ? ハタチの男がいい子とか言われて喜ぶかよ?  だめだ、わけわかんねえ。  俺はSubじゃない。今年の健康診断だって正常だったじゃねえか。  そんな急にノーマルからSubになんてなることあるのかよ?  あー、わかんねえって嫌いだ。  ならはっきりさせるために病院に行った方がいいんだろうな。そうすれば確実なんだから。  でも……  本当に俺がSubだったら……?  俺は震える手でスマホを握りしめてSubについて検索をかける。  ダイナミクスと呼ばれる「性」のひとつ。躾けられたい、尽くしたい、構ってほしい、そんな願望をもちそれが満たされないと心身に不調をきたし、最悪うつ状態となり自殺する者もいる。  なんてことが書いてあり正直震えた。  満たされないことで常に飢餓状態になり、ストレスで暴れたり、逆にふさぎ込み何もできなくなる者もいるとかいろいろ書いてある。  なんか心当たりあるんだけど?  検索していると、SubとDomのエロい動画を見つけ俺は思わずその動画を開いた。  首輪をつけらられた裸の若い男が四つん這いになり、リードをもつ男を見上げている。  こんなことされて、Subは喜ぶのかよ?  ……わかんねえ、わかんねえけど何で俺、動画から目を離せないでいるんだ? 『お座り』  と言われて、裸の男は床にペタン、と座る。   『我慢できたらご褒美だからね』  と言い、リードを持つ男は若い男の頭を撫でた。  その声がシュウさんの声と重なり、俺の身体の中心に熱がたまっていく。  若い男は尻にディルドを突っ込まれて、射精を我慢するように命じられけなげにそれを守ろうとしている。  それを見て俺は、思わずズボンと下着をずらし、硬くなり始めたペニスを引きずり出してゆっくりと扱き始めた。 『……自分でしてごらん。できたら「ご褒美」をあげるから』  そんな声が耳の奥に響く。  そうだ、俺、シュウさんの前でオナニーして……やばい、手、止まんない。  俺の手の中でペニスがどんどん大きくなっていき先走りが溢れはじめた時、スマホの画面にメッセージ通知が表示され、俺は慌てて動画を閉じた。  やべえ、超指が震えてる。  相手はシュウさんだ。 『明日は時間あるかな?』  明日は十時から三時までバイトだ。  素直にそう答えると、 『じゃあ夕方からなら会えるかな』  と返って来る。  どうする、俺? 会いたい? 会いたくない?  さっき見た動画の内容が頭から離れない。  あの人はDomだって言ってたよな。ってことは俺にあんな風に首輪をつけたいとか思うのか?  いいや、俺にそんな嗜好はない……はずなのに、なんで俺、こんなにドキドキしてんだよ。  しかも俺昨日、シュウさんの前でオナニーしてんだよな。あー、思い出したら一気に恥ずかしくなってきた。  迷いまくってそして結局俺は、 『会えます』  って答えを返した。  あー……会えるって言っちゃった。  あの人本当にDomなのか? あんまりそれっぽく見えなかったけど。っていうか見た目でわかるもんじゃねえか。  いちいち自分がDomとかSubとか言うもんじゃねえし。  でも……気にはなるんだよな……SubとDomって惹かれあうんかな。じゃあ俺は本当にSubなのかよ?   『なら良かった。一緒に夕飯食べようよ。色々と話をしたいし』  話しをしたい、と言われて喜びを感じた俺はそのことに驚きつつ、 『わかりました。何時にどこいけばいいっすか?』  と返事を返す。 『バイト終わりに迎えに行くよ。駅前の量販店だよね』  俺バイトのこと話したっけ?  ……昨日の事まじ、思い出せないところある。  昨日何があったのか聞きだそう。そう思い俺はわかりました、とだけ答えてスマホを枕元に置いた。

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