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第25話 ノーマルでDomで

 一駅なのですぐに電車は最寄り駅に着く。  電車を降りて駅を出ると後ろから声が掛かった。 「神代君」  その声に思わずびくっとし、俺はゆっくりと振り返る。  最近俺の帰りが遅いせいかな、よく会うなあ……  案の定、そこには黒の綿パンに半袖ワイシャツ姿の武藤さんが、笑顔で立っていた。  あんまり会いたくなかったんだけど、最寄り駅が同じだから仕方ねぇか。 「今試験中だよね」  そう言いながら彼は俺の前に立つ。 「そ、そうです。あとレポートだけだけど」  だから早く帰って続きやりたい、って言葉がするっと出てこない。  武藤さんと目が合い、その視線に身体が強張ってしまう。  この目……あれ、シュウさんと同じ目……?  やべえ、鼓動が早くなってくる。思わず俺は胸を押さえた。  俺の様子の変化に気が付いたのか、武藤さんは俺の顔を覗き込み言った。 「顔色悪いけど……大丈夫?」 「ひ、あ……え、あ、だ、大丈夫……です」  大丈夫とは思えないだろう声で答え、俺は思わず俯いた。  これじゃあ不審がられるだろうが、俺……! 「神代君」 「な、な、なんですか」 「君、ほんとはSub何じゃないの?」  その言葉に心臓が跳ねる。  違う、って言いたいけどその言葉が出てこない。俯いて押し黙ってると、武藤さんの声が耳のそばで響いた。 「神代君、『お座り』」  言葉に反応し、俺は思わずその場に座り込む。駅前のアスファルトの、人が行き交う路上に。  そして、驚いて武藤さんを見上げた。  武藤さんも大きく目を見開いて俺を見下ろしている。  なんだよこれ……やべえじゃん、俺。  気まずい空気が流れる中、武藤さんは慌てて俺に手を差し出してきた。 「ご、ごめん。まさか通じるとは思わなかったから……えーと、『立って』」  その言葉に反応し、俺は差し出された武藤さんの手を掴み立ち上がった。 「す、すみません」  言いながら俺は視線を下げた。  顔、見らんねぇ……!  ていうかどう言うことだよ? 武藤さん、ノーマルだって言ってたよな?  混乱していると、戸惑いをはらんだ声が聞こえてきた。 「えーと……俺、ノーマルなのは嘘じゃないんだけど……Domの性質があるんだって。なんか珍しいらしいんだけど、それで毎年検査で引っかかるから年に一回、病院にかかってるんだ。でも生活に支障はないし普通に暮らせるんだよね。ただ最近ちょっと変だな、と思ってこの間病院に行ってきたんだ」  病院って言葉に俺は顔を上げる。  武藤さんは気まずそうに俺から視線を反らして続けた。 「検査結果は来週になるんだけど……医者にさ、そばにSubがいてそれで触発されてるんじゃないかって言われたんだよね」  と言い、苦笑して俺の方を見る。  もしかして、最近俺を構うことが多かったのはそのせい?  やべぇ……でも、武藤さんからはシュウさんから感じるものを感じない。  武藤さんがDomとして中途半端だからか?  まあ俺も中途半端だけどさ。  でも、確実に変わってきてる。心も、身体も。 「君は病院にはかかってるの?」  問われて俺はゆっくりと首を横に振る。 「え、何で?」 「いや……何でって言われると困るんすけど……」  認めたくないから。  Subだって認めたら俺の世界が変わってしまいそうだから。 「行ったほうがいいと思うよ? 辛そうにしてたのがSub特有のものなら薬出してもらえるはずだし」  薬……って何?   「そんなもんあるんすか?」 「あるよ。俺も貰ってきたし、Dom用があるんだからSubもあるよ。俺に君が触発されるんなら君だって俺に影響受けちゃうでしょ? それじゃあ仕事に影響出ちゃうだろうし」  あ……それはそうか。  それじゃあ仕事にならなくなるよなあ……   病院行くしかねぇのか……武藤さんに振り回されるのも嫌だし、シュウさんに対して裏切るようなこと、したくねぇから。 「診てくれる病院少ないし、予約しないとだったりするから行くまでも大変だけど、絶対行ったほうがいいよ」 「う……わ、わかってます」  武藤さんにバレたのすっげぇ恥ずかしい。  でも病院に行くしかねぇってのがよくわかった。  他のDomに影響受けたくねぇから、ちゃんと行こう。

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