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第27話 夏休みがやってきた

 八月一日火曜日。  なんとかレポートを提出した俺は朝ゴミ出しをし、荷物をキャリーバッグに詰めて家を出た。  時刻は午後二時。  梅雨はとうに明け、外に出ると照りつける日差しが痛い。今日も猛暑日なんだろうな。  今日から俺はシュウさんちに住むらしい。  夏休み中ずっといるつもりはねぇけど、どうなるんだろう……そのへんの話、してねーんだよな……  そこはかとない不安を抱えつつ俺は焦げ茶色の帽子を被り、待ち合わせ場所である近所のコンビニに向かった。  コンビニまで歩いて十分くらいだけどあっちい。  アスファルトを反射する太陽熱まじやばいだろ?  少し歩いただけで汗が吹き出してくる。  コンビニついたらジュース買おう。そう思いつつ俺はキャリーバッグを転がしてコンビニに急いだ。    コンビニに着くと、シュウさんをすぐに見つけた。  彼は黒い、流行りの軽ワゴンの横に立ちペットボトルに口をつけている。  白い綿パンに、オーバーサイズの白い七分袖を着ていて、爽やかな感じがする。  シュウさんて、白やグレーの服が多いよな。  俺はわりと茶色系の服が多い。気がつくと似たような色ばっかり買っちゃうんだよな。  近づくと彼は俺を見てにこっと笑い、手を振った。 「漣君、こんにちは」 「お待たせしました」  言いながら俺は早足でシュウさんに近づく。 「あっついねー」 「車の中で待っていたら良かったのに」 「あはは、それもそうなんだけどね」  と言い、彼は目の前に立つ俺の首に触れて目を細めた。 「少しでも早く君に会いたかったから」  普段とは違う、少し低い声で言われて俺は背中がゾクっとし顔が熱くなるのを感じた。  ……俺、大丈夫か……?  そこはかとない不安と、期待とが俺の中でせめぎ合う。 「お、俺、ジュース買ってきます」 「じゃあ先に荷物は車に載せちゃおう」  言いながらシュウさんは、車のキーを開けた。  途中スーパーで食材の買物をしてシュウさんちに向かった。 「休みの日は夕飯作ろうと思って」  と、シュウさんは言っていた。  ちなみに俺は料理はめったにしない。ひとりだと買ったほうが安かったりするからな。  とりあえず包丁は使えるし、レシピ見ながらなら料理は出来るけど最後に作ったのは結構前だ。 「俺、料理なんてかなり久し振りですけど、よく作るんですか?」 「僕もそんなに料理はしないなあ。いつだったか君に作ったのも結構久し振りだったし。ひとりだとどうしても食材余っちゃうからなかなか作らないんだよね」 「そうっすよねー。作ってもスープのあとカレーにして、最後カレーうどんにするくらいだなあ」 「あはは、わかるわかる。それだと無駄にならないもんね」  そんな話をしている間にシュウさんの住むマンションにつく。  俺は車から降りてマンションを見上げる。  今日からしばらくここに住むのか……  俺、どんくらいここに住むんだろう……後でそのこと確認しねぇとな……  車から荷物をおろしてエレベーターに乗りシュウさんの部屋に向かう。  シュウさんの部屋に入ると、なんだか妙な気持ちになった。  友達んちに泊まった事はあるけど、住んだことはもちろんない。  一LDKだから、同じ部屋で寝るんだろうなあ……  やべぇ……なにするんだろ……?  この部屋でやってきた行為を思い出すと恥ずかしくなってくる。  六月に俺、初対面のシュウさんの前でオナニーなんてしたんだよなぁ……  その後はこの部屋で、抱かれてるし……俺のこの二ヶ月色々ありすぎだろ? 「荷物は寝室のウォークインクローゼットに入れて。場所は開けてあるから、そこ使ってね」  言いながら彼は買ってきたものを冷蔵庫にしまっていく。 「わかりました」  俺は言われた通り寝室に入り、ウォークインクローゼットを開けて中を見る。  そこは一畳ほどの広さで灰色の衣装ケースが並んでいた。それにハンガー掛けが両サイドの壁にあり服がかかっていて、右側のスペースの半分には何もかかってないハンガーがぶら下がっていた。  そして、その下には三段の水色の衣装ケースが二つ並んでる。  ……これ、わざわざ買ったのか……?  ひとつ三千円位で売ってるとはいえ、ひとり暮らしには痛い出費じゃね? 「漣君、大丈夫? 場所わかった?」 「う、あ、は、はい」  後ろから声がかかり、俺は振り返り返事をする。  シュウさんはこちらに近づきながら言った。 「そこの水色の衣装ケース、空いてるから自由に使って。ハンガーも使って大丈夫だから」 「あ、ありがとうございます。あの、わざわざ買ったんすか……?」  衣装ケースを指さして遠慮がちに尋ねると、シュウさんは笑って首を横に振った。 「ハンガーは買ったけど、衣装ケースは余ってるだけ。意外と服が増えなくて」  と、答える。  よかった、買ったって言われたらさすがに気にする。 「服しまえたらひと休みしようか。アイスコーヒーと麦茶、どっちがいい?」 「コーヒーでお願いします」 「わかった。あと、クッキーとか大丈夫だよね」 「大丈夫です」  答えながら俺はスーツケースを開けて、衣装ケースに服をしまった。    時刻は四時半。  まだ外は明るくて、窓の向こうに見える太陽が沈むにはまだしばらくかかるだろう。  ふたりがけのソファーに腰掛けて、息をつく。  細長い透明なグラスに入ったアイスコーヒーとガムシロ、それに牛乳が入った小さなミルクピッチャーがテーブルに置かれている。  そして、丸いクッキーと小さなチョコレートの載ったお皿も用意されている。  俺はグラスに牛乳とガムシロを注ぎ、マドラーでかき混ぜながら隣に座るシュウさんに尋ねた。 「俺、そんなに長い期間いるつもり無いんですけど……いつまでいたほうがいいですか?」 「あぁ、そういえば決めてなかったね」  さすがにずっといるわけにはいかないし、せいぜい二週間くらいとか漠然と思ってたけど、どうなんだろうか。 「君は実家には帰るの?」  言いながらシュウさんはこちらを見た。  笑ってはいるけど、なんだろう……あんまり機嫌よくなさそうに見えるのなんでかな。  考えてもわかんないから俺は気にせず答えた。 「え? あー……来月のどっかで帰れたらって感じですかね……」  正直、実家に帰るくらいなら働いて金を稼ぎたいから、あんまり帰る気はない。  三月に一週間くらい帰ったし。  親と仲悪いわけではないけどいいわけじゃねぇし、夏休みは高校生の弟が家にいるし、あいつ受験生だから俺がいたら邪魔扱いされそうなんだよなあ。 「僕も帰れたらって感じなんだよね。八月は混むから動きたくないし。じゃあとりあえず、今月中は一緒にいようか?」  満面の笑みで言われて俺は拒絶できず、っていうか断る理由も見当たらず、わかりました、と言って頷いた。 

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