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「──で。その今話していた、お前が産んだ卵がコレなのか?」
何とか講義前に間に合い、黄丹 に軽く挨拶した後、「信じられない話があるんだけど」と話を切り出し、タオルに包んでいた産みたての卵を見せた。
目をぱちくりさせていた黄丹であったが、やがて「冗談だろ」と笑った。
「俺のことをからかうために、そんな壮大な嘘を吐いているんだろ。てか、エイプリルフールはとっくに終わってんぜ」
「信じられない話があるんだけどって、前置きしたじゃん。僕だって、信じられないし」
「⋯⋯じゃあ、お前⋯⋯そういうプレイが好きなのか⋯⋯?」
こそっと耳で言われたことに、カッと恥ずかしさと怒りが同時に込み上げてきた。
「そんな趣味あるわけないじゃん!」
思わず声を荒らげると、周りでそれぞれ話に花を咲かせていた生徒らが一斉に藤田を見てくる。
その視線が痛い。
「す、すみません⋯⋯」
小さくなっていると、ちょうどチャイムが鳴ったことで、そちらに興味が逸れた生徒らはいそいそと席に着く。
「⋯⋯どんまい」
「⋯⋯誰のせいで、恥をかいたと思ってんの⋯⋯!」
からかうように言う友人に言い返していると、「藤田はいないのか」と教授の声が聞こえ、必死になって自分がいることをアピールする。
「⋯⋯朝から疲れるぅ⋯⋯」
「⋯⋯そりゃあ、朝から卵を産んでいるからなぁ〜」
椅子にもたれかかっている藤田から卵を取ると、教科書を立て、教授から見えないところでじっくりと眺めていた。
「卵の形は、鶏と同じようなもんだな⋯⋯。なかなかな硬さだし、立派に産んだな」
「褒められているのか、馬鹿にされているのか、なんとも言えない気持ちなんですけど⋯⋯」
「素直に喜べよ、マーマぁ?」
語尾にハートマークが付きそうな、嫌な言い方に、冷めやらない苛立ちが募るが、さすがに授業中なため、深く息を吐いて、自身を落ち着かせた。
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