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9.
講義中、黄丹は内容をノートに取りつつも、調べ物をしているような仕草をしているのを目で追っていた。
「⋯⋯そこまでしなくても」
つい、そう耳打ちをすると、「⋯⋯気になって」と返した。
「もしかしたら、何かしらの動物の生態と似ていたとしたら、それから対処できるかもしれないと思ったら、調べる手が止まらなくてな」
「⋯⋯教授に見つかっても知らないよ」
「⋯⋯そしたら、志朗がどうにかしてくれ」
「⋯⋯え、なんで僕が⋯⋯」
文句が垂れるが、忙しいと言わんばかりに藤田から目を逸らした。
そんな態度に、声を出さずにため息を漏らした。
この状況を面白がっているのか、それとも、彼の好奇心もあるかもしれない。
講義も同じ熱量で受けて欲しいのだけど。
半ば呆れた藤田は、もう知らないと教授に耳を傾けた。
それからしばらくしてからだろうか。
腹痛を覚えた。
しかし、その腹痛はある日の朝の時に感じた例の腹痛だった。
「⋯⋯っ」
シャーペンを持つ手に力が籠る。
だめだ。何も出来ない。
「⋯⋯志朗? どうした?」
出さないようにしていたが、隣で呻く声で気づいたようだ、黄丹が背中に手を回す。
その手が嬉しいと、この激痛がなければ思うだろう。今はそのことを思う余裕がなかった。
「⋯⋯もしかして、産みそうなのか⋯⋯?」
「⋯⋯ん、⋯た、ぶ⋯⋯っ」
会話をするにも一苦労だ。これで伝わったのかと思っていると、「⋯⋯分かった」という言葉が返ってきた。
少し安心していた。その束の間。
「すみません、藤田が具合悪いみたいなんで保健室に連れて行っていいですかね?」
教室に響かんばかりに言う黄丹に、一瞬腹痛のことを忘れ、恥ずかしさが込み上げてくる。
そう思う間もなく、「あー、行ってこい」と何ともない声で言う教授に「あざっす!」と言って、「ほら、行くぞ」と黄丹の肩に手を回された。
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