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「え⋯⋯なんで、いつの間に」
「産んだ瞬間だな。まあ、カウパー出ていたし? 興奮が最高潮に達したんじゃね? 興奮材料は外にもいたしな」
言葉にして、状況を整理しているような口調で言う黄丹とは裏腹に、藤田の怒りが頂点に達した。
「どうした、体を震わせて。体が冷えたか?」
「⋯⋯ば」
「ば?」
「バカぁ!」
黄丹の頬にクリティカルヒットをしたのであった。
もう信じられない。状況を整理するためとはいえ、あんなことを言わなくてもいいのに。産む瞬間を見られていたこともそうだが、思い返すだけで恥ずかしさと怒りで感情がぐっちゃぐちゃだ。
あの後、勢いで履き直し、呼び止める声を聞くこともなく、受ける講義も終わったため、荷物を持ってそのまま帰って行った。
それから、学校内で目が合って、黄丹が話しかけようとしてきても無視し、そんなことを続けて数日も経つと、さすがに頭が冷えてきて、そろそろ黄丹に会おうと、こちらから話しかけた。
「あの時のことは怒ってないけど、もうあんなことを言うのは止めてよね」
「まだ怒ってんじゃん」
「うっさい!」
食堂で早めの昼食を、まだ湧き上がった怒りをカツカレーにぶつけていると、「ようやく志朗と話せるから言うけどさ」と、バッグから上部分が割られた薄黄色の卵をテーブルに置いた。
「あの時の卵、中を見てみたら、やっぱり中身が入っていたんだよ」
「へー、そうなの。で、中身は?」
「多分、ローションみたいな、もしくはカウパーみたいな、そんな透明でねちょっとしたやつ」
まだ中身が入っているのか、ご丁寧にラップにされていたそれを指先で弄っていた。
「最初の時はただ産んだだけだから、何にもなかったかもしれなくて、二度目は⋯⋯まあ、状況がああだったからら、変化があったかもしれんが、何故中身がコレなのかさっぱりなんだけどな」
また藤田に怒られると思い、言葉を濁して言う黄丹の発言を、頭の中でゆっくりと咀嚼する。
動物の無精卵のようになるかと思っていたそれは、ありえない動物だから、ありえないことが起きている。
無精卵の動物を例にもできない藤田の無精卵を、どう原因を探ればいいのか。
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