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講義が始まる数分前に席に着けることが出来たが、先ほどのことがあり、どっと疲れた藤田は、机に顔を突っ伏していた。 黄丹にとっては、実験にも似たもので、愛を囁くような言葉の数々は他意がないはずだ。 だから、こちらとしても逐一大げさに反応──した方が断然いいかもしれないが──しなくてもいいのに、素直になれなくて、つい当たっているような言動をしてしまう。 さっさとときめいて、この関係性を終わらせてしまえばいいのに、不可抗力な関係を複雑な気持ちでいるのなら尚更なのに、自分は何がしたいのだろう。 「志朗、何してんの?」 隣に自然と座る形となった黄丹が、藤田のつむじを指先で突っついていた。 「さっきので疲れたのか? お前、騒ぎすぎなんだって。そんなんじゃ、いつまで経っても有精卵が産めないぞ」 「⋯⋯んー⋯⋯」 ごもっともな意見に、曖昧な返事しかできなくなる。 「ま、元々素直になれないところがあるよな。同クラの女子を目で追っていた時、好きなのかと聞いたら、『違うし!』って全力で否定していたりな」 「⋯⋯違うし」 あれは本当に違うのだ。黄丹が他の友人らと話していた時、「ああいうのがタイプかもな」と言っていたから、どのような人なのかと観察していただけで、全く好みでもなんでもない。 と、反論しても相手の思う壷だ。小さく反抗する程度に留め、何も言わず、手持ち無沙汰なのかなんなのか、その間も人のつむじを突っつく黄丹のされるがままになっていた。 「そんな頑固な志朗が素直にときめくように、俺頑張るからさ、その時は素直にときめいてくれよな」 つんつんとした後、手が離れた。 その後すぐに時間を告げるチャイムが鳴ったのを、反射的に身を起こし、講義を受ける姿勢となった。 今回の講義では真面目にノートを取る黄丹の姿を横目で見ながら、さっき彼が言ったことを頭の中で思い返す。 素直のように見せかけた想いを告げても、何とも思わないだろうか、と。

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