31 / 47
31.
しかし、いつまでも白身と黄身が分かれたものの前にしてうんうん唸っていても仕方ない。
それに、久々の卵を見ているうちに喉が鳴った。
「久しぶりに作ろうかな」
フライパンを温めている間に、白身と黄身を一つにまとめ、塩、しょうゆを少々、砂糖をスプーンに一杯分掬ったものを入れ、それらを混ぜた。
少々経った頃にフライパンの上に手をかざす。
ちょうど良い温かさだろう。
垂らした油を隅々にまでいくよう、フライパンを傾けた後、混ぜた卵を垂らす。
ジュウッと音を立てる卵を先ほどと同じようにフライパンの隅々にまで行き通らせ、少し待つ。
裏面がある程度焼けた頃、菜箸で巻く。
巻いた玉子を端に寄せ、空いた箇所に再び油を引き、卵液を垂らし、巻く行為を二回やった後。
「できた」
平たい皿に移し替えたものを見て、満足げに言った。
卵が高騰してから、疎遠になっていた玉子焼き。久しぶりに作ったのもあって、少々焼きすぎたところもあるが、ご愛嬌だ。
菜箸で一口に切り分け、フーフーとした後、口に入れた。
しょっぱさの次に砂糖の甘みが上手く調和し、卵の甘さを引き立たせている。
我ながら美味しい。
『お前が作ったやつ、めっちゃうめーんだけど! 毎日食いてぇ〜』
あの頃の黄丹の言葉が聞こえて来た。
あの頃──高校の調理実習の時、黄丹の班の作った玉子焼きが、それはそれは見事な真っ黒になってしまったようだ。
その時たまたま隣の班であり、背中合わせをする形で席にいた藤田の玉子焼きを、許可を得ず勝手に取って食べた。
急なことに抗議の声を上げる隙もない時、黄丹はそう言った。
零れんばかりの笑みを浮かべて。
途端、心臓が早鐘を打ち、息が詰まりそうなほど苦しくなった。
けど、それで良かったかもしれない。そうでないと、そんな雰囲気でも、しかも、クラスの人達の前で笑いの種をされそうなこの気持ちを告げそうになったのだから。
ともだちにシェアしよう!