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34.
遠くの方で、物音が聞こえる。
霞む意識の中、同時に後頭部に心地よい冷たさを感じた。
あれ、用意したっけ。
重たい瞼をゆっくりと開けた。
知らぬ間に寝ていたらしいのと、仰向けの状態でいた藤田は、次に物音がする方向へ顔を動かした。
藤田の住む部屋はワンルームであるため、いる場所から台所が見えるのだが、その台所に立つ者が目に映ったことで思考が停止する。
そうなるのは、何かをしている後ろ姿に見覚えがあったからだ。
「⋯⋯げん、いち⋯⋯」
どうして、ここにいるの。
その言葉はちょうどこちらに用があったのか、こちらを振り返ったことで途切れた。
「あ、志朗。起きたか。どうだ、調子は」
丼を持ってこっちにやってきた。
あの時と変わらずの優しげな笑みを浮かべて。
いつもなら、目を合わせるだけでも苦しみを感じていたが、今は安心して涙が溢れるほどだ。
「おい? どうしたんだよ。泣くほど辛いのかよ」
「⋯⋯う、ん⋯⋯」
反論する気力もなく、素直に言ってみせると、意外な反応だと思ったのか、目を丸くした。
「⋯⋯ほー⋯⋯。俺の言うことに必ずと言っていいほど文句が言うやつが⋯⋯よっぽどだな」
丼をそばにあるローテーブルに置いた後、流れるように額に手を置かれた。
今度は藤田が目を丸くした。
「めっちゃ熱いじゃん。季節性のやつ? それとも、腹出したまま寝ちまったとか?」
「それ⋯⋯熱、関係ないじゃん⋯⋯」
ふっと力なく笑いながら、思わず突っ込むと、驚いた顔を見せた。
「はは、そうだな! いつもの突っ込みが聞けて嬉しいわ」
そう言って無邪気に笑う。
そんな表情を見せられて、熱とは違う熱さを感じてしまう。
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