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玉子焼き用のフライパンの中で薄く敷いた卵黄を見つめていた。 それから少しした後、うっすら焼けたのが見え、すばやく巻いていく。 「うん、上出来」 つい、声に出てしまっていた。 しかし、そうなるのは無理もない。そう口に出てしまうほど浮かれているのだから。 あれから二日経った後、熱が完全に引いた藤田に黄丹が、「遊園地に行こうぜ」と言われた。 別にいいけど、急にどうしたのと訊くと彼はこう言ったのだ。 「お前の玉子焼きが食いたいから!」 鼓動を高鳴らせる笑顔を見せつけられた上にそのようなことを言われたら、断ることなんて出来ない。むしろ、喜んで作ってあげたいところだ。 だから、今、はりきって主に玉子焼きを作っている。 そう、作っているのだが。 「⋯⋯うーん、これはさすがに⋯⋯」 出来上がった玉子焼きの山を見て、苦笑していた。 あまりにもはりきりすぎた。 これでは、玉子焼きがメインのお弁当になってしまう。 あまりにも面白くないのでは。 しかし、作ってしまった手前、無駄にするわけにはいかなく、今日の夕飯にでもしようかと思っていた時。 そばに置いていた携帯端末が軽快な音を立てて、藤田を急かす。 そのアラームは、家を出なければならないことを告げるものだった。 「えっ、もうそんな時間!?」 液晶に映し出された時間を見て、素っ頓狂な声を上げた藤田は、出来た玉子焼きとおにぎりを弁当箱に敷き詰めて、身支度を整え、慌てて家を出たのであった。

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