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第46話 馬車での尋問

 近づいてくるサラトリアから距離を取ろうと、シェイドは座席の上で虚しくもがいた。  なぜ、この男がここにいるのだろう。国王の腹心であり、押しも押されぬ公爵家の当主となった男だ。無論、国王誕生祭には祭祀を司る家系の長として、重要な席を用意されている。  その男がどうして――。 「なぜ貴方がここにいらっしゃるのですか」  シェイドの詰問に、馬車の揺れをものともせずに歩み寄ってきたサラトリアは皮肉そうな笑みを浮かべた。 「貴方様が乗っておられるのはヴァルダンの馬車です。マンデマール侯の馬車は私が追い返しておきました。あんな遊蕩者の馬車に乗ったら最後、ファルディアになど永遠に辿り着けないでしょう」  常にもなく荒々しい仕草で、サラトリアはシェイドのすぐ隣に腰かけてきた。シェイドは息が止まりそうになるのを感じながら、追い詰められたように座席の隅へと逃げる。それをサラトリアが追ってきた。 「旅の見返りに何を要求されるのか、聡明な貴方様には分かっておいでですね」 「ッ!」  足の間にサラトリアの手が滑り込んできて、シェイドは驚愕のあまり目を見開いた。 「相手がマンデマール侯から私に変わっただけです」  馬車の暗がりでもその不思議な瞳の色が分かるほど近くに、サラトリアが迫っていた。口づけせんばかりに寄せられた顔から、シェイドは顔を背けた。 「……ッ、公爵ッ!」 「国王陛下の御許を離れるとはこういうことです。貴方は庇護者を失った。誰に乱暴されても受け入れる以外ないのです」  内腿を撫でる手が深く沈み込んできた。シェイドは両足を固く閉じて拒みながら、サラトリアの肩を押し返した。突っ張った両手に逞しい身体を感じる。柔和な雰囲気のせいで着痩せして見えるが、ジハードと遜色ないほど見事に鍛えられた肉体だった。 「暴れても無駄ですよ。それとも荒っぽくされる方がお好みですか」 「あッ……!」  肩を押し返す両手がサラトリアの片手に掴まれた。  長身の公爵はそのまま馬車の天井に手を伸ばし、垂れ布に紛れて隠されていた長い帯を取り出した。片手に掴んだシェイドの両手首に、その帯を手早く巻き付ける。手を拘束されたシェイドは鋭い悲鳴を放ったが、その声は馬車の車輪の音にかき消された。  天井から下がった帯をサラトリアが引くと、一纏めに縛られた両手は高々と吊り上げられた。 「こうやって縛られて、地下牢に吊るされたのでしたね。……それから、どんな目に遭われたのでしたか?」  サラトリアの声が耳鳴りのように歪んで響いた。  ただでさえ暗い馬車の中で、シェイドの視界は墨を零したように黒く塗り潰されていく。優し気な声が頭の中を掻き回し、馬車に揺られる体は平衡感覚を失う。  胸の苦しさに引き攣った声を上げて息を吸ったが、どんなに喘いでも息苦しさは薄れなかった。むしろどんどん苦しくなるばかりだ。 「やめて……ッ!」  大きな体が上から圧し掛かり、シャツの胸元を開いた。  悲鳴を上げて拒絶し体を捩じっても、サラトリアの手は止まらない。耳鳴りがますます大きくなり、何か言うサラトリアの声さえも反響するばかりで掴めなくなる。ただ服を脱がされていく感触だけが鮮明に感じられた。 「やめて――ッ、やめて、嫌ですッ……!」  両腕は馬車の天井から下がる帯に縛められ、指先はもう痺れて感覚がない。視界は真っ暗でグルグルと回り、上か下かも分からない。はだけた胸元に息が吹きかかる感触が生々しく伝わり、肌の上を滑る指先に皮膚が粟立っていく。  地下牢に捕らえられ、大勢の傭兵たちから辱めを受けた時と同じだ。体を開かれ、性の奴隷に堕とされる。見も知らぬ相手ではなく、ジハードの片腕と目される青年に。 「……やッ、嫌! い、やッ……嫌だッ…………ッ!」  呼吸を求めて胸がふいごのように激しく上下した。なのに息が苦しくて堪らない。まるで見えない相手に首を絞められ、息の根を止められているかのようだ。  サラトリアの指が何かを探すように胸の上を這っていく。もうすぐ、奴隷の証が下がる左胸に指が辿り着いてしまう。恐慌に陥ったようにシェイドは叫んだ。 「駄目だ、触らないで! 触らないで、お願い、そこに触らないで! 触らな――……ッ」  叫んで叫んで叫んで……。  小さな金属の札がついにサラトリアの指に触れられようとした時、糸が切れたようにシェイドは意識を途切れさせた。  怖ろしいほどの速さで上下していた胸が鎮まり、力が抜けて行くのを、サラトリアは冷静に観察していた。過去の恐怖に追い詰められ、神経が焼き切れたように静かになった姿を認め、榛色の瞳が痛ましげな光を帯びる。  首筋に手を当てて心臓が確かに脈打っているのを確かめると、サラトリアは拳で扉を叩いて馬車を路肩に止めさせた。 「――灯りを」  外の兵士に命じて、サラトリアは外套の隠しから皮袋に包まれた布を取り出した。鎮静のための薬を滲みこませた布だ。途中で目覚めることがないよう、意識を失っているシェイドの口と鼻を覆って吸わせる。次いで座席の下に収納されていた台を引き出してくると、足置きの台と繋げて馬車の中を一つの大きな寝台のように変えた。 「灯りをどうぞ」  外から扉を叩いて角灯を差し出したのはノイアートだ。軽甲冑に剣と弓で武装した物々しい姿は、街道を行く旅人たちに好奇の視線さえ向けさせない。今度の旅はミスル離宮へのそれと違って、人目を忍ぶ必要はなかった。  扉を閉めて鍵をかけたサラトリアは、角灯の一つを天井の金具に掛け、もう一つを手に持って、シェイドを見下ろした。  白桂宮に戻って以来決して肌を見せなかったというシェイドは、その体に秘密を隠し持っているはずだ。ラナダーンの手下を捕らえたサラトリアは、砦で何が行われたかのあらましを知っている。それを暴き、取り除かねばならない。  サラトリアはシェイドの身体から身に着けているすべての物を剥ぎ取っていった。  年端もいかぬ少年のように痩せた体が、角灯の明かりの中に現れた。  その白い胸元の中央についた痣は、かつてサラトリアがシェイドの命を呼び戻したときについたファラスの紋章だ。  ――そして、その左側。心臓に近い方の胸の柔肉に、人間を獣に貶める忌むべき印が穿たれていた。 「……」  怒りを堪えるような表情で、サラトリアは飾り気のない金属の札に指で触れた。  救出されて何か月も経つというのに、シェイドの肉体はこの下劣な札を厭うかのように、いまだに熱を持って腫れ上がっている。シャツの内側には血が点々とついていた。先程の揉み合いの時に出血したらしい。  この札があるがゆえに、シェイドはジハードの元を離れなければならなかったのだ。 「シェイド様……」  サラトリアは意識を失った白い胸の上に口づけを落とした。体は温かく、胸は確かな鼓動を刻んでいる。白桂宮で衰弱死させることを選ばず、外の世界へ逃がしてくれたジハードにサラトリアは感謝した。  息を一つ吐いて気持ちを切り替える。  シェイドの眠りが深いことを確認すると、動きやすいように上着を脱ぎ、シャツの袖を捲り上げた。傍らには公爵家の医師から預かってきた道具の箱が置いてある。それを開け、サラトリアは先が細く尖った刃物を取り出した。  処置の仕方は王都にいる間に十分に習ってきたが、実践するのはこれが初めてだ。角灯を手元に置いて慎重に輪の繋ぎ目を検分する。  血で固まった継ぎ目を見つけると、刃物の先をそこへ差し込み、サラトリアは無言の気合とともにそれを抉じ開けた。  心地よい揺れが馬車の揺れだと気が付いて、シェイドは自分が深い眠りの淵から浮上していくのを感じ取った。  今度はどこへ旅しているのだろう。夢うつつにシェイドは考える。  ジハードの腕に抱かれていれば、どこへ行くのも怖くない。向かっているのは温暖で実りの多い南の地だろうか。それとも異国情緒溢れる東の国境か。  西の方には変わった植物が多いと聞く。北へも一度は行かねばならない。  なぜなら、北の地には……。 「お目覚めですか?」  かけられた声で完全に目を覚ましたシェイドは、体を起こそうとして小さな声を上げた。傍らに寄り添う誰かの、裸の胸に手を触れてしまったからだ。そして自分が一糸纏わぬ裸でいることにも気が付いて、慌てて布を掻き寄せた。  気を失うように眠っていたのはヴァルダンの馬車の中だった。寝台のようになった広い座席で、裸のまま大きな掛物を被って誰かの胸に抱かれている。声の主はサラトリアだった。 「もうすぐ夜明けです。夜通し走ったので、朝方にはベルランド領に到着するでしょう。大きな宿場町がありますから、そこに着いたら少し休息を取りましょう」  守るようにシェイドを抱くサラトリアの声は、穏やかで優しかった。  シェイドは困惑して、間近にある榛色の瞳を見つめた。サラトリアは微笑み、幼い子どもにするようにシェイドの頭を撫でた。 「大丈夫ですよ。貴方を困らせるようなことは何もしていません。まだ、ね……」 「公爵、いったい貴方は……」  何か言いかけて、シェイドはハッとなったように視線を落とした。裸の胸に奴隷の証となる札が付いている事を思い出したのだ。そこは柔らかい布で覆われていた。ずっと付きまとっていた疼くような鈍痛の代わりに、ピリピリとした軽い痛みが感じられた。  サラトリアが穏やかに微笑んだ。 「無粋なものは私がこの手で取り除きました。まだ痛むでしょうが、傷が塞がっていなかったのが幸いです。ファルディアに着く頃には大方塞がって、見た目にもわからぬほどになっているでしょう」  言われてみれば、確かに胸が軽い。何かに肉を噛まれている絶え間ない煩わしさが、そこにはもうなかった。 「お一人で抱え込まれて苦しかったでしょう。ジハード様にもフラウにも、誰にも言えずにいらっしゃったのですね」  その言葉に、目頭が熱く滲むのをシェイドは感じた。  思いもかけず、サラトリアから同情の籠った声をかけられて、張りつめていた緊張の糸が緩んでしまったのだ。  サラトリアの言う通りだ。誰にも言えなくて、苦しくて苦しくて堪らなかった。  奴隷の証を身に着けたまま死なねばならないことが悲しくて、浅い眠りから目覚めるたびに絶望の息を吐いた。それが、取り除かれた。  あの絶望からサラトリアが解放してくれるとは、思ってもみなかったことだ。彼はいつも慇懃すぎる態度で、それが却って馬鹿にされているようで不快だった。王兄とは名ばかりの男妾のくせにと、きっと内心ではひどく蔑まれているのだと思っていた。  胸をそっと押さえてみる。確かに、もうそこにあの札の感触はなかった。 「……ありがとう、ございます……」  たどたどしく礼を述べると、サラトリアが背中に腕を回して抱き寄せてきた。  裸だったので一瞬どきりとしたが、サラトリアの方は下を脱がずに旅装のズボンを穿いたままなのを知り、大人しく力を抜いて体を預けた。人肌の温もりが心地よい。 「貴方は傷の癒し方をご存じない。一度抉らせた傷というものは、切り開いて膿を出してしまわねば、塞いだだけでは治らないのです」  穏やかな声が耳を擽る。逞しい両腕が包み込むように背を抱いた。  夏のこととはいえ、早朝の冷たい空気は馬車の中まで忍び込んでいた。その冷気から守るように、サラトリアの腕はシェイドをすっぽりと包みこむ。  思わず気が緩んでしまいそうになった時、サラトリアが抑揚のない声で囁いた。 「……傷を開く役目は、私が仰せつかりましょう」 「……ッ」  サラトリアに体を預けていたシェイドは、びくりと体を強張らせた。背を包んでいたサラトリアの片手が腰へと下り、さらにその下へと進んでいったからだ。 「あ……」  大きな掌が臀部を覆い、柔らかな肉を握りしめた。ぎゅっと力を籠められると、忘れかけていた官能が腰の奥で疼き始める。 「!……いや、です。公爵……触らないでください」  小さな拒絶の声をサラトリアは聞き入れなかった。尻を撫でる手は腿へと伸び、内側の際どい所を指先で擽った。腕を突っ張って体を起こそうにも、サラトリアの力強い腕に押さえられて身動きできない。 「……公爵……ッ」  腿の裏側を撫でられると足の間の物が血を通わせ始めた。馬車の振動でそれがサラトリアの身体に当たって擦れる。右の乳首が硬く尖り、サラトリアの胸に擦れて感じ始めた。 「ぁ……ッ」  体の熱が急速に上がっていく。長い間解放を得ずに過ごした体はひどく飢えていて、僅かな刺激にも過剰なほどに反応してしまうのだ。 「砦で何があったのか、私に教えてください」  昂り始めるのを待っていたかのように、残酷な言葉が耳元に囁かれた。  シェイドは首を横に振ってその命令を拒絶しようとした。だが、サラトリアはそれを許すような甘い人間ではない。追い詰めるように長い脚が膝を割り、開いた足の間に手が滑り込む。悲鳴のような声でシェイドは叫んだ。 「聞かずとも、貴方はご存じなのでしょう!」  サラトリアはシェイドが砦の地下牢に吊るされ、凌辱されたことを知っていた。知っているのはそれだけではないはずだ。もしかすると、サラトリアはあの砦で行われたことを何もかも知っているのではないか。  忘れたいと何度願ったかわからない。それなのに悪夢のような記憶は一時もシェイドの脳裏を離れず、嘲り笑う声は起きているときにも夢の中にも追いかけてくる。  何人もの男たちに続けざまに犯される苦痛。道具のように精を浴びせられる屈辱。そして、それを貪るように尻を揺らして得た、目も眩むような快楽。  生まれながらの性の奴隷のように、何度も何度も昇りつめた――。 「ええ、知っています。捕らえた敵兵を一人ずつ尋問したのは私ですから、何が起こったかはすべて知っていますよ」  全身の血が逆流し、叫び出しそうな衝動がシェイドを襲った。悪夢が生々しく蘇ってくる。 「ですから」  シェイドの背を拘束するサラトリアの腕に力が籠った。 「何もかも言っておしまいなさい。貴方を今も苦しめているものの正体を吐き出すのです。そうしなければ、貴方は一歩も前に進めない。このままずっと闇の中でもがき続けるおつもりですか!」  サラトリアの声は、最後は鞭打つような叱責だった。  常に笑みを絶やさず、誰に対しても柔らかな物言いをするこの青年は、戦場に於いては剣を取って馬を馳せる将校でもあったのだ。  一喝されて、シェイドはびくりと体を強張らせた。  それだけではない。サラトリアは、遠くはウェルディス王家と祖を共にする大貴族の直系当主だ。世が世ならば、ジハードと兄弟のように育てられたとしても不思議ではない、ウェルディスの末裔――。 「あ……」  甘い痺れが背筋を駆け抜けた。  今まで気づきもしなかったが、激した時の声がジハードに似ていた。間近で聞けば、まるでジハードに尋問されているかのようで――。 「言いなさい! それとも、力づくで私に記憶を塗り替えられたいのですか!」  引き寄せられた腰に、ズボン越しの昂ぶりが当たった。  猛々しくいきり立つ肉の塊。砦で受けた数々の凌辱が一気に蘇り、血の気が引きそうになる。 「――!……ッ……嫌だ、触らないで……!」  もがいて身を離そうとしたが、サラトリアの腕はシェイドを捕らえて離さない。  立ち上がろうと動いた膝の間に長い脚が入り込み、空いた隙間から手が滑り込む。長い指に兆しかけた男の部分を絡めとられて、シェイドは悲鳴を上げた。 「やぁッ!……だめ、だめです……これ以上、ジハードを裏切りたくな……ぁ、あッ!」  ふり絞った制止の声は、サラトリアにはなんの歯止めにもならなかった。包皮に守られた部分を指に囚われ、剥き出しにして前後に擦られる。鼻にかかった善がり声が堪えきれずに漏れ始めた。 「……んっ、……あ、……ぁ……」  心底嫌だと思っているのに、巧みな指に扱かれると腰が揺れる。サラトリアの指に追い上げられ、屹立が見る見るうちに硬く凝った。  手淫から逃れたくて腰を浮かせれば、自由になったサラトリアの手はますます大胆に動き始めた。張りつめた袋の部分とその奥の会陰を揉まれて、屹立の先端がぴくりと揺れる。官能の波が怒涛のように押し寄せてきた。 「い、や……!」  どんなに拒んでも、与えられる快楽から逃られない。サラトリアは抵抗をものともせず、易々と愛撫を加えてくる。触れられれば、頭でどれほど嫌悪しようが体は熱を帯び昂っていく。  この肉体は貞淑さとは縁のない淫らな北方娼婦そのものだ。開かれれば歓喜の声を上げ、下賤な傭兵であろうが逆賊の兄であろうが、尻を振って精を貪らずにはいられない。獣同然の淫婦なのだ。己の呪わしさにシェイドは啜り泣いた。 「……言ってください。誰が、貴方にジハード様を裏切らせたのです」  サラトリアの尋問が始まった。答えなければここを苛むと、指先が奥の窄まりに添えられる。シェイドは引き攣るような声で叫んだ。 「……アリア様、のッ……あ、あ、傭兵の、頭領です……ッ、だめ、入れないで……ッ」  円を描くように入り口の肉を解す指先が浅く埋まってきたが、拒むように力を入れると、指は男の部分へと戻っていった。安堵する暇もなく今度は男根を擦られて、立てた両膝に震えが走る。腰が前後に動きそうになるのを自制するので精一杯だ。  完全に勃ちあがった屹立からは、すでに先走りが糸を引いていた。サラトリアはそれを指に絡め取り、脅すように窄まりの縁に塗りつけた。 「それから……?」  言わなければ辱めを受ける。追い詰められたシェイドは何もかもを打ち明けるしかなかった。 「ラナダーンと……ッ、彼の、配下の領兵にも、あッ、ぁんッ……んくうぅッ!」  戻ってきた指が先端の小さな割れ目に這わされて、シェイドは腰を掲げて嬌声を放った。弱い場所を探られ、言葉が続かない。どこが好いかを知らせるようなものだと分かっていたが、浮いた腰が揺れるのを止めることはもうできなかった。割れ目を広げるように指先が食い込んできて、シェイドは上半身を拘束されたまま切なく悶える。 「……もう、いやぁ……触らない、で……」  下腹に生じた炎は今やシェイドの全身に広がり、頭の中までもを焼き尽くしそうになっていた。サラトリアの手に自らを擦りつけるように、尻が淫らに踊る。サラトリアの手はゆるゆると、だが確実にシェイドを追い上げていた。  熱が高まり放出の予感にぶるりと腰が震えると、蜜で濡れた指先は再び秘めた肉の入口へと戻ってきた。肉の環が物欲しげに口を震わせ、指先に吸い付こうとするのがわかる。馬車の揺れに合わせて腰が揺れ、すっかり硬くなった先端がサラトリアの腹に擦れた。  指で中を犯されたい。だが、それを望むのはジハードへの裏切りだ。  シェイドの葛藤を見透かしたように、サラトリアの指先が窄まりに宛がわれた。 「札は誰に着けられたのです……?」 「それ、は……!……だ、めぇ……ッ」  つぷ、と指先が埋まった。答えを躊躇するうちに、そのままゆっくりと中に入り込んでくる。拒もうとして指を締め付ければ、飢えた肉壺は異物を一層生々しく感じさせた。腰の奥から官能の波が湧き起こり、シェイドは悲鳴のように叫んだ。 「……マクセルです、ッ……あぁだめ、入れないで……彼は、私を……身の程を知らぬ畜生だと言って……『洗礼』、を、や、入れな……ぁああッ!」 「『洗礼』……」  平坦だったサラトリアの声が動揺を帯びたが、シェイドはそれには気づかなかった。体内に深々と入り込んだ指が腹側を揉み解し、中を押されるたびに震えるほどの快感が下腹に広がった。官能の蜜が溢れ、敏感な先端が濡れたサラトリアの腹にぬるぬると擦られる。もう気をやってしまいそうだ。 「ゆるして……も、ぉ、ゆるして、ゆるしてぇ……ッ……」  総毛立つほどの悦楽が腰の奥から押し寄せてきた。許してくれと啜り泣きながら、シェイドの腰は貪欲に揺れ、中に入ったサラトリアの指に食いついていた。ジハードの手によって拓かれ、卑しい傭兵たちの手で玩具に堕とされた肉体だ。長い禁欲に飢えきって、もう自分でもどうにもならない。  相手など誰でもいいのだ。この中を埋め尽くし、激しく突き上げて獣の悦びを与えてくれるのなら何でもする。 「あぁ!……あ、ひ、ぁあ、ぁあああッ!」  言葉にできない望みを読み取ったように、指の動きが激しくなった。中を掻き回され、ぐりぐりと抉られて、頭の中が真っ白に染まる。  そうだ、これが欲しかったのだ。指を締め付け好い場所に導くと、何もかも心得たように指がそこを責め立てた。 「ぁあ――ッ!…あッ…ああぁ――――ッッ……!」  下腹から全身に広がる悦びの波に抗えず、シェイドは甘い悲鳴を上げて昇りつめた。絶頂に痙攣する肉壺の中を、指は容赦なくさらに責め上げる。  萎えた屹立から緩い蜜がドッと溢れ、洗礼を受けた時の怖ろしいほどの法悦が生々しく蘇った。狭い通り道を何かが通り抜けていく快感に善がり声を上げずにはいられない。 「……いいぃ……あ、あ、また逝く……ぅっ、ぁあ――――ッ……!」  立て続けに与えられる悦楽に頭が芯まで焼け付き、もう快楽を貪ることしか考えられなかった。サラトリアが与えたのは、飢えた肉体には過ぎるほどの快感だった。 「……あ、あぁ、ぁ……あ……」  指が抜けて行く頃には、絶頂を味わいすぎて意識が朦朧とするほどだった。  全身を強張らせて恍惚を味わい、サラトリアの首筋に突っ伏して喘ぐ。あまりに深い余韻が腰から下を蕩かし、両足から力が抜けてサラトリアの腰を跨いでしまう。二人の体が密着した。  馬車の揺れに合わせて、達したばかりの敏感な屹立がサラトリアの腹に擦られる。官能の炎は体の奥で燻り続け、いつまた焔を上げてもおかしくない。内腿には硬いサラトリアの牡が当たっている。――次はこの逞しい肉の凶器で犯されるのだ。  怖ろしさと嫌悪の中に、凌辱への期待が確かに混ざっているのをシェイドは否定できなかった。そして、そんな自分を呪った。 「……許してください……ジハード……」  抵抗する気力もなく全身をサラトリアに預ける。どんなに貞節を守りたいと思っても、この淫らな体はそれを裏切る。相手は誰でもいいのだ。初めて会った時にジハードが看破したように、生まれながらの卑しい北方娼婦なのだから。  啜り泣くシェイドを、サラトリアは慈しむように抱きしめて言った。 「肌を合わせることを心地よく思えるのは、貴方が健やかな証です。恥じることも苦しむことも、もうおやめください。貴方は何も悪くないのですから」

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