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第11話 湯殿の小部屋

 落ち着くのを待って、シェイドは湯殿へと連れて行かれた。  窮屈な婚礼衣装からやっと解放され、結い上げていた髪も全ての装飾を外して解かれる。湯殿の手前にある更衣のための部屋で、裸になったシェイドは姿見に映る自分の姿を見つめた。  鏡には痩せて白い肌をした男が一人映っている。よく見れば、その胸の中央には神王ファラスの御印が淡い傷となって残っていた。首から掛けていたファラスの護符が、あの嵐の日に何らかの形で烙印のように刻み込まれたのだ。  腰まで伸びた髪は色のない金。泣いて化粧が落ちた顔の造作は、美しいか醜いかを判ずる以前に、白い肌の上に輪郭が滲んでしまう。ただ蒼い目がそこにあるのが分かるのみだ。  ウェルディリアで良いとされるがっしりとした肩幅や筋肉質な体、浅黒い肌はどれも持ち合わせていない。あまりに異質すぎて、異国人めいた印象が全てに勝ってしまう。  年齢は年が明ければ二十九だ。薹が立ちすぎていて、最下層の娼館でもこんな北方人を買おうとはしないだろう。  国王から奥侍従にと望まれる理由は、何一つ無いように思われた。 「お体が冷えてしまいますから、湯殿に参りましょう」  上着を脱いで袖を捲ったフラウが促した。 「白桂宮は地震の後に湧いた出で湯を引き込んでありますから、いつでも温かいお湯が使えます。湯殿をお使いになりたいときは、どうぞいつでもお申し付けください」  更衣の部屋と湯殿とを仕切る扉を開くと、噎せるほどの湯気が扉から噴き出してきた。床は石造りだったが、浴槽から溢れる湯を常時流しているらしく、濡れてじんわりと温かい。新鮮な香草の香りがいっぱいに広がっていた。 「こちらへどうぞ。まずは冷えたお体を温めましょう」  フラウは巨岩を丸く刳り抜いたような形の浴槽に導いた。  水瓶の形をした大理石の器から、湯気を立てる湯が途切れなく浴槽に注がれ、そこから溢れた湯が石の床に流れて温めている。シェイドは浴槽の側で足下から順に湯を流してもらい、湯の温度と体を馴染ませてから浅い湯船の中に入った。  両手を伸ばしても端に届かぬほど広いが、深さはあまりなく、寝そべって入る形になっている。頭を凭れさせる窪みがあり、そこに凭れると、フラウが濡れた髪を掬い取って洗い始めた。  ピリピリとした刺激が、体温が上がるにつれ消えていく。思った以上に冷え切っていたようだ。温みで凝った体が解れていくと、香草の爽やかさが心地よく感じられ始めた。これはシェイドが出入りの業者から毎月購入する、気持ちを落ち着ける作用のある隣国の特産品だった。国内では乾燥したものしか出回らないはずだが、惜しげも無く湯の中に投入されたらしく、香りは豊かだった。荒れていた気持ちが少しずつ凪いでいく。 「……今日は、お疲れになられたでしょう」  額の汗を拭いながら、髪を洗う手を止めずにフラウが話しかけてきた。 「少し……」  国王に対する暴挙と子供のように泣いた無様を見られたせいで、虚勢を張るのも馬鹿馬鹿しくなった。シェイドは正直に今の気持ちを伝えた。疲れているし、夢であれば良かったのにと願わずにはいられない、と。  フラウはそれを聞いて控えめな笑みを浮かべると、屈み込んで頭を洗う素振りで、口をシェイドの耳元に近づけた。 「もし……殿下が酷くお疲れのようでしたら、私から国王陛下に今宵は寝室を別に取って下さるよう進言いたします」  緊張の滲む声とその内容に、シェイドは驚いて従者の顔を見上げた。フラウは笑みを浮かべていたが、その表情は幾分強張っていた。  侍従の身分で寝室を指図するような出過ぎた進言は、おそらくジハードの怒りを買うだろう。フラウはそれを覚悟の上で、シェイドが望まぬのならその進言をすると言っているのだ。シェイドは複雑な気持ちになった。  正直なところを言えば、ジハードと同じ空間に居続けるのは苦痛だ。部屋を別にしてくれるというのなら、行く先が地下牢でも構わないくらいだった。だが、今夜はそうやって逃れられたとして、明日の夜はどうだろうか。その次の夜は……。  頑なさに愛想を尽かされて、二度と会わずに済むというのなら望むところだが、ジハードの様子からしてそうはなるまい。ならば先延ばしにすることに意味は無い。  シェイドにとって唯一の救いは、ジハードが極めて飽きっぽい性格であることだ。  内侍の司に所属し、王太子宮殿の後宮の出入りをつぶさに見てきたシェイドは、ジハードが特定の人間を長く寵愛しない性格であることを知っている。何しろ一ヶ月とまともに仕えることができた奥侍従が一人もいないのだ。  何年か前には北方人の少年を入宮させるようにとの要請が続き、それこそ王都中を探し回って根こそぎ後宮に入れるような有様だったが、そのほとんどが一夜で王宮を出されている。  北方人には並ならぬ執着があるようだが、一人の人間に長く固執する性格ではないようだ。  ならば、少しでも早く飽きて貰えるほうがいい。 「……気遣いはありがたいが、陛下が望まれるならば、私はそれを受け入れようと思う」  半年前のあの嵐の夜のことが思い出された。――――今夜、あの苦痛を再び味わうことになる。  それは確かに恐ろしかったが、刑罰のようなものだと思えばきっと耐えられる。生まれてきたことが罪なのだから、それに対する刑罰なのだと思えば――――。 「承知いたしました」  髪を洗い終えたフラウが、沈鬱な表情で首肯した。一度深々と頭を下げ、次に顔を上げたときにはその顔からは抜け落ちたように表情が消えていた。 「では、お寝間に侍るための準備を今から致します。お湯から上がられて、どうぞこちらへお越し下さい」  フラウがシェイドを連れていったのは、湯殿の中の一角を仕切って作られた空間だった。小部屋の真ん中に、湯殿には不自然な籐の揺り椅子が置かれている。背凭れは深く、寝椅子のような形だ。 「どうぞ、椅子におかけ下さい」  椅子が不用意に揺れぬよう足下に木片を噛ませて、フラウはシェイドにそこに上がるように促した。何のためかも知らぬまま、シェイドは裸の体を大きめの寝椅子に預けた。  手が届きそうな隣には、先ほどの浴槽を小さくしてその分深くしたような溜め湯の浴槽があり、水瓶を模した大理石から湯が溢れているのも同じだ。足下の床にも常時湯が流れて湯気を籠もらせているため、湯から上がって裸でいても寒くはなかった。 「おみ足はここへ」 「あ……」  フラウは突然シェイドの足を捧げ持つと、低めの肘掛けだとばかり思っていた部分に掛けてしまった。足を大きく左右に開き、何もかもを曝け出す姿に狼狽するうちに、フラウは椅子の脚に噛ませてあった木片を抜き取って、揺り椅子を大きく後ろに倒してしまった。 「フラウ!」  このまま椅子ごと仰向けに倒れるのではないかと思ったが、頭よりも腰の方が高くなったところで椅子は止まった。その角度から動かぬよう、今度は手前側の椅子の脚に木片が入れられた。 「何を……!」 「お閨の準備を致します。お力を抜いていて下さい」 「……!」  シェイドはフラウが手に持っているものを見て絶句した。フラウは溜め湯の中に浸けてあった硝子の瓶のようなものを手に掲げていた。逆さにした瓶には底に当たる部分がなく、口には動物の腸を加工したらしい細長い管が付き、さらにその先端には円錐形の鳥の嘴に似た陶器の口が取り付けてあった。  それをどうするのだと、問う暇も無かった。秘めておくべき場所に、嘴の先端が滑り込んできたのだ。 「あっ」  先端は細く、油も塗られていたようで痛みはなかった。だが次の瞬間、腹の中に温かいものが逆流してきて、シェイドは椅子の肘掛けを掴んで呻いた。 「力まずに。口で大きく息をなさって下さい」  フラウの声は聞こえたが、シェイドは総毛立つような悍ましい感触に息を詰め、首を横に振った。フラウは構わずに瓶を高く掲げる。  溜め湯で温められた瓶の中身が体の中に流れ込んでくると、捻れるような鋭い痛みが下腹を襲った。 「……フラウ、やめて……」  絶え絶えに声を絞り出したが、答える従者の声は固い。 「今暫し、辛抱なさいませ」  有無を言わせぬ答えに、シェイドは肘掛けを握りしめて浅く喘いだ。下腹が痛むあまりに、吐き気までする。全身に冷や汗が浮かび、下腹部はグルグルと不気味な音を立てていた。 「……ま、だ……か……?」 「すぐに吐き出しては効きが悪うございます。もう暫くご辛抱を」  シェイドが苦悶しているのを知っていながら、フラウは嘴を抜いてはくれない。  波のような腹痛が強弱を付けてシェイドの下腹を襲った。口を大きく開けて喘いでも逃がせる苦痛は僅かでしかない。  全身にびっしりと汗を浮かべ、喉を反らしてシェイドは喘いだ。腹鳴が激しさを増すごとに、喘ぐ苦痛の声が徐々に大きくなり、差し迫ったものへと変わっていく。  もう限界だと思った瞬間、嘴が抜き取られ、揺り椅子が起こされた。 「よろしゅうございます。楽になさいませ」  その言葉を待つ余裕もなかった。  腹の中に収められていた液体が、開いた足の間から石の床を叩いた。入れられていたのは香油だったらしく、芳しい香りが湯気に乗って小部屋に漂った。間を置かずにフラウが手桶に汲んだ湯を何杯も流し、その香りもすぐに散ったが、他人に排泄を強制されて見られた屈辱にシェイドは涙を滲ませた。  荒い息をつきながら、座った椅子をよくよく見てみれば、籐で編まれた揺り椅子は随分奇妙な形をしていた。  肘掛けのような台が二段になっていて、短い方は手で握りしめるように、そしてその下から伸びる部分は端に出っ張りが作られ、大きく開かせた脚を乗せて固定できるようになっていた。臀部が触れる部分は特に目が粗くなっており、汚れが水で効率よく洗い流せる仕様になっている。床面の傾きは他よりやや大きく、椅子のすぐ背後には排水口が口を開けていた。  湯を溜めている浴槽も、人間が入るためではなく道具類を人肌に温めておくためのものだ。ここは、閨に侍る奥侍従が支度をするための小部屋なのだ。  白く瀟洒な宮の中に、こんな淫靡で屈辱に満ちた場所がわざわざ作られていたことに、シェイドは身震いした。  ジハードは初めからそのつもりでいたのだ。青い宝玉のついた額環まで用意して、優し気な言葉を並べながら、シェイドに人としてこれ以上ない辱めを受けさせようと手ぐすねを引いて待っていたのだ。  ――――俺がこれからお前にすることを思えば、何ほどのことでもない。  ジハードの囁きが耳の奥に蘇る。確かに、いくらシェイドが卑しい生まれだと言っても、この仕打ちは平手の一つくらいで釣り合いの取れるものではなかった。 「殿下、お体の力をお抜き下さい」 「や、め……!」  フラウの声に気づいて、制止する暇も無かった。  揺り椅子が再び後ろに倒され、脚の間に再び異物が入り込んでくる。しかも今度の異物は先ほどのものより明らかに太かった。 「嫌、だ……ッ」  温かいものがまた体の中に流れ込んでくる。しかも今度は勢いも強く、量も段違いに多い。ずり上がって逃げようにも、揺り椅子は計ったようにシェイドの体にピタリと沿い、椅子の中で身を捩る以外ほとんど動くことはできなかった。  悲嘆と悲鳴が混じり合ったような声が、仰け反ったシェイドの口から漏れた。 「大変結構です。声を上げた方がお体が楽になりますから、抑える必要はございません」 「……フ、ラウ……ッ!」  冷徹にさえ聞こえる従者の言葉に、シェイドは何か叱責の声を上げようとしたが、結局縋るように名を呼ぶことしかできなかった。下腹が、今度はずしりと重くなり、張りつめてくる。先の香油ほどの捻れるような痛みはなかったが、その代わり臍から下全体に重い鈍痛があった。 「ただのお湯にございますから、香油よりは楽なはずです。高貴の方の寝室に侍る前には、中を洗浄しておかねばなりません。十に満たぬ子供でも受けている処置にございますから、どうぞお気を楽になさいませ」  もう悪態をつくこともできずに、シェイドは肘掛けに爪を立てて呻きを漏らした。  手に持った瓶の中身が吸い込まれて消えれば、フラウは溜め湯の湯を瓶に次々と追加する。痩せていた腹部がポコリと丸く膨れ、息をするのも苦しいほどだった。 「……今少し耐えていただいた後、栓を抜きます。どうか、栓が抜けるときの感覚を良く覚えておかれますように。限界まで耐えた苦痛から許されて、解放される瞬間を体で覚えるのです。よろしいですね」  ガクガクとシェイドは小刻みに頷いた。もう疾うに限界は迎えている。一刻も早く解放されたくて、シェイドは泣き声のような喘ぎを上げながら、その瞬間を待った。 「……抜きます」  静かな宣告と共に揺り椅子が起こされ、体内に埋められた異物がゆっくりと抜けていく。角度を付け、下腹の内側を擦り上げるように抜けていくため、栓の隙間から待ちきれぬ大量の湯が溢れ出た。  気泡が弾けるような音と共に、先端の膨らんだ部分が抜け出た瞬間、脚の間から激しい水音が断続的に立った。 「……あ……あぁ……あぁぁ……!」  永劫続くかと思われた苦痛からやっと解放される。  異物が作り出した道筋を通って、下腹部を占めていた苦痛の基が勢いよく吐き出された。浅い息を一つ、石の床を水の塊が叩く音が一つするごとに、張りつめていた腹部が緩み、痛みが和らぎ、緊張と苦しみから少しずつ解き放たれていく。恥ずかしいはずの水音さえも、その音が激しいほど、比例して体が解放されていくのが実感できれば、心地よくさえ聞こえる。太い水の流れが一気に通り過ぎていくときには、叫びを上げずにはいられぬほどの快美があった。  解放は長く続き、フラウは全てが流れ出ていくまで手桶の湯でシェイドの下腹部を清め続けた。 「……良く耐えて下さいましたから、その分心地ようございましたでしょう」  フラウの声が幾分温もりを帯びた。  シェイドは椅子の背凭れにぐったりと全身を預けて、気怠いような脱力感に荒い息をついた。苦しかったが、確かにフラウの言うとおり、解放されたときの感覚には得も言われぬ心地よさがあった。  まだ息を荒げながらも、目を開けて視線を投げてきたシェイドに、明るい髪の従者は微笑みを浮かべた。その手には先端が丸く膨らんだ一握りほどの陶器の棒が握られている。あれが体内に入っていたもののようだ。 「あまり立て続けに行うのはお体の負担になりますから、最後にもう一度洗浄するまでの間にお体を解しておきます。どうぞ休息の時間と思って、楽になさっていて下さい」  フラウは手に持った棒に上から琥珀色の液体をたっぷりと纏わせた。ふわりと匂い立った香りからすると、一番始めに体内に入れられた香油のようだ。フラウはトロトロと液体が滴る棒を握り直し、その先端をシェイドの胸元に近づけた。 「……あ……」  白い胸の中で淡く色づいた部分に、フラウはその丸い先端を押しつけた。香油を塗り込めるように円を描くと、反対側の同じ場所にもそれを優しく塗りつける。  そのまま棒は脇腹を辿って下腹部の方へと下りていき、ごく淡い茂みに守られた部分へと伸びた。体が温まったせいかうっすら質量を増している部分に、フラウはその棒を擦りつけ、残りの香油を全て塗りつけてしまった。 「中も潤しておきましょう」  もう一度棒に香油を垂らしてから、フラウは度重なる排出で敏感になっている窄まりの中に、それをゆっくりと挿入した。 「あ……、んっ!」 「……痛くはありませんでしょう?」  挿入の瞬間は思わず身構えてしまったが、陶器の棒は何の抵抗もなくスルリと内部に入ってしまった。香油のせいでいくらかの排泄感はあったが、先ほどと比べれば軽微なものだ。 「口で大きく息をして、声をお出し下さい」  その言葉とともに、フラウが陶器の棒をゆっくりと前後させた。香油のせいで出入りは至極滑らかで、多少の異物感や排泄感はあるものの、耐えがたいほどのものではない。  それどころか、ゆっくりと大きく出し入れされるうちに、下腹の奥に奇妙な熱が溜まり始めた。 「……う……、ッふ……」  肘掛けを握りしめ、シェイドは揺り椅子の中で背を反らした。  棒が体内を擦り上げるたびに、腰が跳ね上がるような鋭い感覚に襲われる。特に腹側の浅い部分を擦られると、ツキツキとした甘美な疼きが生じて、下腹についたものが張りつめていく感覚があった。 「……フラウ……ッ」  下腹に目をやったシェイドは、困惑したように従者に訴えかけた。 「おかしい……下腹が……」  ごく淡い下生えから、シェイドの肉の楔が立ち上がろうとしていた。触れられもしないそこは、微かな痛みを伴いつつ、上下に揺れながら角度を付けていく。そこだけではない。香油を塗られた乳首が硬く凝って痛みを感じるほどだった。  あの香油は、排泄を促すためだけではなく、何か他の薬効も含まれているのかも知れない。淡く平坦だった乳首はプクリと勃ちあがって色づき、足の間の生殖器はもはや完全に勃起していた。 「フラ……あ!……あ!、ひ、ひっ……!」  単調に体内を抉られる動きが、徐々に強い波を生み始めていた。腰から脳天まで、あるいは下腹から鳩尾まで、電流のような快感が走り抜ける。生殖器の先端に蜜が溜まり、それが伝い落ちていく感覚に震えが走った。  この根元の部分に何かが起こっているのに、その正体が何であるかをシェイドはまだ知らなかった。 「……いや……だ、……ああッ!……おかしい、そこは変な……ッ!」  体を解すどころではない。シェイドは襲い来る感覚にビクビクと腰を跳ね上げ、足の指を折り曲げて力んだ。下腹に籠もった熱が高まりすぎてじっとしていられない。  無意識のうちに腰が揺れると、フラウは責めの手を緩めるように、異物を深々と奥まで潜らせた。奥の方まで入れられると苦しいが、総毛立つような快感が少し緩んだ分、シェイドは胸を喘がせて息をついた。 「少し拡げます」 「あ……ッ」  棒の形をした異物を奥まで入れたフラウは、根元の部分を握って大きく円を描き始めた。円を描きながら、ゆっくりと棒を抜き出していき、ぎりぎりのところで反転して、また奥へと進めていく。異物を食んだ小さな窄まりも、体内の奥深くも、かき混ぜるような動きで拡げられる。  苦しさが勝っていたところに小さな快楽が散り始め、苦痛のために声を漏らしているのか、快感があって声が出るのか、わからなくなりながら、シェイドは大きく喘いだ。  丸く膨らんだ先端が、時折体内のひどく感じやすい場所を抉っていく。下腹の熱が高まり、もう少しで何かを得られそうだと思った途端、その棒はあっけなく体内から抜き出された。 「最後の洗浄を致しましょう」  シェイドは涙に潤む目で、落ち着き払って事を進める従者を見つめた。だが、そのやり方に口出しできるほど、シェイド自身は閨のことに詳しくない。恨めしげに見つめていると、その目の前にフラウは最後の洗浄に使う栓を取り出して見せた。 「今度は私が良いと申し上げるまで、この栓が抜けぬようご自分で締めておいてください」 「……自分で締める、のか。……それをどこまで、入れるつもりだ……?」  フラウが示した最後の栓は、丸い果実を棒で貫いて繋げたような形をしていた。先端の珠はウズラの卵ほどだが、二つ目三つ目と進む内に珠は大きさを増し、四つ目は親指と人差し指で作った円よりも一回り以上大きかった。 「今日は初めてですので、ここまでに致しましょう」  フラウが示したのは、鶏卵ほどの大きさの三つ目だった。観念したようにシェイドが目を閉じると、揺り椅子が後ろに倒された。  緊張に震える窄まりに丸い先端が押しつけられ、ゆっくりと沈み込んでくる。  一つ目……二つ目……、……三つ目までが香油の助けを借りて体内に収まった。 「お尻を窄めて。しっかりお締めください」  言われたとおりに異物を締め付けると、すぐに大量の湯が流れ込んできた。苦しさに声を上げ、肘掛けに爪を立てて耐えながら、シェイドは最後の洗浄を受け入れる。  先ほど快楽を教えられたせいか、体内は敏感になっていて、大きな珠を締め付けると足の間の屹立が揺れた。腹の内を湯が満たしていく苦しさも、どこか甘い疼きに通じる気がする。屹立の先端から零れた緩い蜜が臍の窪みに溜まり、乳首はますます張りつめて痛みを訴えた。 「……やぅッ……ッ!」  突然シェイドは悲鳴を上げて体を強張らせた。内圧が高まるにつれて異物を支えておく力が緩み、三つ目の珠が体の外へと抜け出てしまったのだ。すかさずフラウの手がそれを再び体内に押し込んだ。 「まだなりません。次に吐き出されたら、お湯の量をお増やし致しますよ」  厳しく言い放つ従者の手は、空になった洗浄瓶に新しい湯を継ぎ足し続けている。もうとっくに先ほどの量を超えているのではないかと思えたが、揺り椅子は起こされず「出して良い」との声もない。  腹圧が高まるたびに、シェイドは小さく叫びながら臀部に力を込めた。渦巻くような腹痛と、異物がもたらす快感の欠片が混じり合い、頭の中が真っ白になっていく。  ――――解放の許しを得た瞬間、恍惚とした表情がシェイドの面に浮かんだ。    湯から上がったシェイドは、姿見の前で前開きの薄物を着付けられた。白い肌の上にすっかり色づいた胸の印が浮かび上がり、薄物越しに淫靡な赤が透けている。その下、足の間ではまだ収まらぬ勃起が、存在を主張して薄物を持ち上げていた。  鏡には泣き濡れて目元を赤く染めた北方人が映っている。生まれてこの方、性の快楽だけを糧に生きてきたのだとでも言いたげな、飢えて物欲しげな貌をした北方人の娼婦が。 「……では、寝室に参りましょう」  主を首尾良く淫婦に変えた従者が、手を取って誘う。  歩くたびに最後に収めさせられた少量の香油が内股を伝い、乳首と屹立の先端に薄物が擦れて、シェイドに淫靡な呻きを上げさせた。だが、これはまだ準備でしかないのだ。  ――――今から、ジハードとの初夜が始まる。

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