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第13話 書斎
上段の棚にある本を取ろうと手を伸ばしたシェイドは、小さく呻いて身を屈めた。
貴婦人用の部屋着の中で、温かい粘液が内股を伝い下りていくのを感じる。早朝の湯殿でフラウに全て始末してもらったつもりだったが、まだ体内に残った分があったらしい。昨夜は回数も分からなくなるほど中に注がれたから、奥に溜まったものが流しきれなかったのだろう。
誰もいないと分かっていたが、人目を憚るように床にしゃがんで手巾を取り出し、周りを気にしながら脚の汚れを拭い取る。従者は書斎の中まではついてこない習わしなのがせめてもの幸いだ。
連日の交合で少し腫れて熱を持った場所も軽く拭う。汚れた手巾を屑入れに捨てると、シェイドは本を取るのを諦めて書斎の中に置かれた長椅子に身を横たえた。
――――体が怠い。
下腹にほんのりと灯った熱を散らそうと、寝椅子の上で冷たい手の甲を額に当てる。王妃の指輪と、額に嵌めた王位継承者の額環がぶつかって、カチリと耳障りな音を立てた。
年が変わる直前の冬の日に、シェイドは王妃タチアナ・ヴァルダンとしてこの白桂宮に入った。腹違いとはいえ実の弟でもある国王ジハードに、奥侍従として身を捧げるためだ。
当初は三日もすれば飽きられるだろうと思ったのだが、年が明けた今もまだ、役目を解くとの言葉は聞かれない。それどころか、交合に体が馴染み始めると、それを待っていたかのように、近頃は昼間にも閨の相手を求められるようになった。
政務の合間を縫って戻ってくる国王は、食事や休息の間もシェイドを傍らから離そうとしない。体中に口づけられ、熱を煽られて昂ぶり、時にはそのまま力強い王を受け入れて噎び泣くこともあれば、夜まで焦らされることもある。
そう、解放を得ぬまま身を離されることを焦らされていると感じるほどに、今やシェイドの体は多淫な奥侍従のそれに仕上がっていた。
「ん……」
身じろぐと、体の奥深くから昨夜の精がとろりと滲み出てくる。
太く逞しい牡の象徴にここを拗じ開けられ、快楽の源を思うさま掻き乱されたときの悦びが脳裏に蘇った。体の中心が疼いて、緩やかに力を持ち始める。
初めて体を拓かれた時には苦痛しかなかったというのに、今では思い出すだけで体が反応してしまう。下腹が疼き、ひどい時には傍目からも知れるほど体の中心が姿を変える。
もしもこの浅ましい様子をジハードに知られたなら、きっとまた昼間から食堂の椅子の上で逞しい腰を跨がらされ、獣のように喘がされるに違いない。
鎮まれ……、とシェイドは長椅子に横たえた自らの肉体に命じた。
奥侍従は、王族の所有物である自らの肉体に触れることを許されていない。昂ぶりを自ら慰めて始末するなどということは厳罰に値する。心を落ち着けて、肉体が鎮まるのを待つしかないのだ。
――――その時、シェイドの耳に聞き慣れない物音が届いた。物が割れて壊れる音だ。
白桂宮の従者達は皆よく躾けられていて、滅多なことでは粗相することもない。珍しいことだと思って耳を澄ませていると、今度は女性の声が聞こえてきた。何を言っているかまでは聞こえないが、怒鳴りつけるような荒々しい口調だ。
どうやら常ならぬことが起こっているらしい。
「…………」
しばしの逡巡の後、シェイドは長椅子を降りて、声のする方へと足を向けた。一体何者がこの閉ざされた宮にやってきたのだろうかと。
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