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第17話 快楽の深淵

「ん……」  背後の壁にシェイドを追い詰め、ジハードは長く厚みのある舌を歯列の間から滑り込ませた。濡れた舌と舌が擦れ合う感触に、シェイドは小さく呻きを漏らす。ジハードの舌は巧みに動いて、この舌で愛撫された時の感覚をシェイドの脳裏に蘇らせた。  息苦しさに顔を逸らそうとするのを許さず、ジハードは頬に添えた指先で耳朶を擽りながら、もう片方の手を胸元に滑らせた。 「……!……んっ、んん……」  胸の柔らかい肉はシェイドの弱い場所だ。爪先で引っかかれるとすぐにぷくりと勃ちあがって、ジハードの指を押し返す。ジハードは健気な肉の突起を虐めるように爪の先でそれを弄り続けた。  鳩尾から下腹にかけて総毛立つような快感が走り、シェイドは思わず腰を引いてジハードかから身を遠ざける。 「足を開け」  隠そうとする仕草に目敏く気づいたジハードが、静かに命じた。  知られた羞恥に目元を染めて、それでも命令通りにシェイドは足を開いた。薄い体毛に守られた欲望が、浅ましい形に変化している。ジハードはそれを手に取って前後に扱き、勃ち上がりかけた屹立の勢いを確かなものへと変えてしまった。 「俺の妃はお前だ。だからお前が孕めば良い」 「陛下……」  昨夜も、泣きが入るまでここを嬲られた。  ジハードは巧みな指淫でシェイドの屹立を射精の寸前まで高めては、乳首を弄び後孔を苛んで生殺しにする。奥侍従が自らの快楽の追及を禁じられていると知りながら、耐えかねたシェイドがその禁を破って自身への愛撫を強請るまで、執拗に嬲り続けるのだ。  結局、涙ながらに乞うても、ついに男としての解放は与えられなかった。体内を穿たれ続ける女の悦びに最後には正気さえ失って、いつ閨が終わったのかも覚えていない。今日も目が覚めた時からずっと、体の芯に熱が灯りっぱなしだった。  今もジハードはシェイドの男の部分を駆り立てるだけ駆り立てると、あっけなく手を離してしまった。その手は両足の奥へと滑りこむ。 「……濡れているぞ」  指先を窄まりの中に埋めて、ジハードが笑いを漏らした。書斎で溢れ出た分は拭い取ったが、体の奥に大量に吐き出された昨夜の残滓がまだ溜まっていて、少しずつ降りてきているのだ。ジハードが二本の指で肉の門を拡げると、内股を温かいものが伝い落ちていくのが分かった。 「侍従の不手際だな。……それともお前が俺の子種を腹の中に収めておきたかったのか」 「あぁっ……!」  笑いながら、ジハードが指を窄まりの中に深く埋めてきた。  内側に粘液を溜めた肉壺は、骨ばった長い二本の指を難なく呑み込んだ。我が物顔で自在に動く指に内壁が吸い付き、指先がその壁を擦るたびに腰が淫靡に跳ね上がった。 「指にいやらしく食いついてくる。望み通り、たっぷり種をつけてやろう」 「……っ……」  体を強引に返されて、シェイドは湯殿の壁に縋りついた。  後ろから伸びたジハードの手に片方の膝が持ち上げられ、立った姿勢で後孔が無防備になる。その窄まりに熱い怒張の先端が押し当てられた。 「あ……っ」  ジハードはまだ表宮殿で政務を行うための略装を纏ったままだ。足下の床は静かに溢れる湯で濡れているが、ジハードは服を濡らさないよう、このまま立って事を行うつもりなのだ。  怖い、と思った次の瞬間、濡れた窄まりを押し広げてジハードの逞しい牡が入り込んできた。 「……!……う……」  シェイドより頭一つ背が高いジハードは、腰の位置も高い。揺るぎない強さで下から押し上げてくる怒張に、シェイドは壁に縋り付いて伸び上がったが、逃げられるはずがなかった。爪先立った腰が両手で引き下ろされ、太い凶器が肉を割って進んでくるのを喘ぎながら受ける以外にない。 「力を抜け」  ジハードはそう言ったが、力を抜けばジハードの怒張が容赦なく奥まで入ってくるだろう。それに、爪先立ちになっていては、力を抜けるはずもない。 「シェイド」  ジハードは聞き分けのない奥侍従に焦れた声を上げた。できない、とシェイドが首を横に振ると、ジハードは残る膝の裏にも後ろから手をかけ、幼児に小水を促す時の要領でシェイドの体を宙に浮かせた。 「ぁあっ……、いや……!」  思わず石造りの壁に刻まれた彫刻に手をかけ、しがみついて逃れようとしたが、それを許すようなジハードではない。壁に体を押しつけるようにして追い詰め、両脚を大きく左右に開かせた姿で、守るもののない窄まりの中に猛った怒張を呑み込ませていく。  シェイドは裂かれるような高い悲鳴を上げたが、湯殿の壁に反響した声が消えるより早く、全てを体内に収めさせられていた。 「……お前は、俺に抱かれるのが嫌なのか」  背後から体を密着させたジハードが、震えるシェイドの耳元に低く囁いた。その怒りの気配にシェイドは震えあがる。  両脚はまだ浮いたままだ。体の中には深々と芯棒が入れられて、その先端は腹を突き破りそうなほど奥まで刺さっている。泣こうが喚こうが、助けは来ない。  ここは美しいけれど堅固な牢獄で、シェイドは刑を執行される罪人だった。卑しい北方の血を引いて王宮に生まれたことこそが、王家の血筋を冒涜するというあまりにも大きな罪なのだ。 「いいえ……」  震える声で、シェイドは心にもない言葉を紡いだ。  自分を守れるのは自分だけだ。この牢の中で受ける罰を少しでも軽微なものにしたいのなら、心を偽って従順な囚人であり続けるしかない。 「天にも昇るほど嬉しゅうございます……陛下にご寵愛いただけて、またとない誉れにございます!」  恐怖と屈辱の涙を豊かな髪の流れに隠し、シェイドは奥侍従としての模範的な答えを叫んだ。  震える声での言葉を聞いて、ジハードの怒りも幾分和らいだらしい。ようやく両脚が床に下ろされた。  命じられるより先に、シェイドは自ら腰を後ろに突き出して淫らに揺すり始めた。国王の欲望に奉仕し快楽を与えるのが、奥侍従に課された最大の務めだ。  昨夜の名残がよい滑りになって、潤滑剤を用いる必要はなかった。身を穿つ肉棒の太さは苦しかったが、毎夜閨で受け入れているものだから、耐えられることは分かっている。 「この身の内に御種を注いで、どうか私に陛下の御子を孕ませて下さいませ」  浅ましい淫婦のような言葉を、シェイドはあえて選んだ。  ジハードはひどく機嫌を損ねている。こういうときには少しでも拒む素振りを見せてはならなかった。  唇を噛み、支えにしている壁の彫刻を握りしめながら、大きく腰を回す。排泄感に似た下腹の重さも良く知るものだ。ジハードの吐精を促すように、自ら深く怒張を呑み込み締め付けた。 「俺の子を、産みたいか」  後ろから聞こえる声が艶っぽく掠れた。ジハードの情欲が高まってくる兆しだ。 「……産みとうございます……っ」  捨て鉢になって大きな声で叫んだ。例え天地が逆さになろうと、男の身で子を孕むことなどありはしない。例えジハードが戦の男神その人であろうと、それは同じだ。  なのに、ジハードは自分が熱心に抱き続ければ、シェイドが孕めるようになるとでも妄信しているのか。これほどの精力があるのならば端女の一人でも寝所に迎え入れればよいものを、シェイドには全く無益としか思えない行為を止めようとしない。 「シェイド……お前に俺の子を産ませたい……!」 「ぁあ、あっ……!」  背後から回った手に両の乳首を抓まれて、シェイドは泣き声にも似た声を上げた。後孔を犯す肉棒も、シェイドからの奉仕では物足りぬと言いたげに、自ら柔らかい肉の道を往復し始めた。 「あ、あ、あ……ひっ」  抓まれる胸の先端から痺れるような快感が走って、シェイドは壁に顔を押しつけた。居ても立ってもいられないほどのもどかしい疼きが全身を走る。  ここに来てからというもの、この胸の粒は毎夜念入りな愛撫を受けていた。ごく淡く透き通るような色をしていた柔肉は、今では鮮やかに色づき、大きさも少し増したようだ。刺激を受けるとすぐに服の下で硬く尖って、シェイドを飢えたような気持ちにさせてしまう。 「……あぁ……ああぁ……!」  その肉粒から痺れるような疼きが走って、シェイドは掠れた声で喘いだ。  シェイドが一つ喘ぐたびに、ジハードの牡を食んだ肉は歓喜して収縮する。シェイドの悦びを如実に感じ取り、ジハードの牡はますます大きくいきりたった。勢いを増した凶器は狭い肉の道を押し広げ、ゴリゴリと抉りながら行き来して、シェイドをさらに大きな快楽の沼へと引きずり込んでいく。 「ひぁ……ぁああ、あッ……もう……も、うッ……!」  悲しげな声が、ひっきりなしに湯殿の壁に反響した。壁の彫刻を握って縋るシェイドの手がぶるぶると震える。  ――――触れて、欲しい……。  シェイドは無意識のうちに腰を揺らした。両脚の間で息づく昂ぶりが、愛撫を強請るように先端から蜜を垂らす。  自ら触れることは許されていないその場所に触れられたい。手で触れられて、めくるめくような最後の解放に辿り着きたい。  だがシェイドの望みを叶える気はないのか、ジハードは滅多とそこには触れてくれなかった。時折手慰みに数回扱いてくれても、吐精を迎えるまでには至らない。  もう何日、精を吐き出していないだろう。ジハードはシェイドに男としての快楽と女のような悦びの両方を教えたが、吐精を許してくれたのは数えるほどだ。後は後孔ばかりを責め立てて、シェイドを終わりのない女の快楽へと突き落とす。這い上がろうとするたびに足を掴んで引き戻されるような、絶望的なまでに深い沼の中に。  沼の水は全身に絡みつき、頭の中までもを支配して、シェイドを淫ら極まりない娼婦へと生まれ変わらせてしまう。 「あは、ああぁ!……い、いいぃ……ッ」  下腹の奥に疼きが広がるのを感じた途端、目も眩むような深い快楽に襲われて、シェイドは叫んだ。閉じた瞼の裏で閃光が激しく明滅し、体中から力が抜けていきそうになる。 「好かったか……それとも、まだ足りないか……?」  膝が崩れそうな体を後ろから抱き寄せ、体を小刻みに揺らして、まさに天へと昇りつめるシェイドをジハードはさらに追い立てる。 「あっ、あっ、あっ……いぃ、いいです……い、く……さわ、……てっ」  腹の下から襲ってくるあまりにも強い悦楽が、シェイドの理性を焼き焦がした。  シェイドは善がり声を上げて、ジハードの手を取ると自らの男根に宛がった。ここを扱いて、男としての性の満足を与えてほしい。  だが、切ない願いは叶いそうにもなかった。そこはすでに男としての勢いを失い、女のように蜜を垂れ流すばかりだったからだ 「嫌、だ!……果てたい……いかせ、て……!」 「ああ、いくらでもいかせてやるぞ……!」  すっかり慎みを失って強請るシェイドの声に、ジハードの応えが重なった 「ひ、ぃ……っ!」  背後からの突き上げが激しくなった。肌を打ち、濡れた穴を肉棒が掻き回す音が湯殿に響く。  崩れそうになるシェイドの体を壁に押しつけて、ジハードが疾走する悍馬のような力強さで突き上げた。恐怖を覚えるほど巨大な波が腹の奥底から押し寄せる。 「……あ――――ッ!……ッ!」  ついに堪えきれなくなって高く叫んだその声には、隠しきれない媚びが含まれていた。 「……も、うっ……ゆる……許して、ぇッ……ッ!」  嬌声が湯殿の外にまで漏れた。  言葉では許しを請いながらも、その声音は男を煽ってさらなる陵辱を望むかのような、甘い媚態を示している。それを聞いて男が止まるはずもない。 「駄目だ……ッ、世継ぎの王子を、お前に孕ませてやる……!」  ジハードの答えにシェイドは啜り泣きを漏らした。どれほど抱かれようと、この身体に世継ぎの王子を授かることなど永遠にない。  昇りつめても昇りつめても果てがなかった。この際限のない快楽は刑罰にも拷問にも等しい。啼けども啼けども追い上げられ、拒もうとしても無理矢理頂きに放り投げられ、頭の芯が快楽に焼き切れてもなお許されることもなく……。 「――――ああぁぁッ……もうだ、め……、おかしく……おかしく、なる――……ッ!」  体を捻って、シェイドは背後のジハードを振り返った。  白い頬がすっかり朱に染まり、赤みを増した唇は濡れて光っている。荒い息をつけば小さな舌が見え隠れし、その唇から漏れるのは鼻に掛かった甘え声だ。  金泥を底に沈めた蒼い目が、涙を浮かべて縋るようにジハードを見つめた。狂おしい光がその目に宿り、瞬きとともに白い頬を涙が零れ落ちた。 「……産みます……陛下の御子を、産ませてください……っ!」  舌足らずの懇願が、ジハードの逞しい牡に最後の一線を踏み越えさせた。  あとはもう言葉にならぬ嬌声交じりの悲鳴と、押し殺した低い呻き声だけが湯船の水面を長く叩いた。

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