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第18話 焦がれる罰
湯殿の壁際に手足を小さく抱え込んで横たわり、シェイドはまだ治まらない嗚咽に背を震わせていた。
脳内が真っ白になるほどの愉悦に繰り返し浸ったせいで、ジハードの腕から離された今も腹の底で熱が燻っている。余韻と呼ぶには激しすぎるその熱は、力の入らない手足をヒクヒクと痙攣させていた。
「……シェイド」
側を離れていたジハードが戻ってきた。
頬に張り付いた髪を指先で退けられると、その指の感触にさえシェイドは喘ぎを漏らして体を震わせる。何度も何度も昇りつめたが、今日も男としての最後はないままだ。もどかしいようなさざ波が下腹を揺らしていた。
ジハードはその姿を、感情を読ませない漆黒の瞳で見下ろした。
「お前を恋い続けた俺に、新しい妃を宛がおうなどと目論むからだ。まだ一度月が巡っただけだというのに、俺が満足したとでも思っていたのか」
ジハードの声は静かだったが、内に根深い怒りが潜んでいるのは、押し殺したような口調で分かる。シェイドは恐怖に震えた。
アリアの野心を利用して、ジハードに妾妃を迎えさせようと考えたのは事実だ。
未だ不安定な情勢が続く宮廷も、従姉である公爵家の姫を妃に据えれば少しは安定する。さらに嫡子が生まれれば国王としてのジハードの権威は盤石のものとなるだろう。未だ反目している旧国王派もジハードに膝を折らざるを得ない。アリアは妃として迎えるにはうってつけだった。
だが、それは建前だった。
もうここへ来て一ヶ月になる。ジハードも十分に満足したはずだと思った。如何なる形を取るにせよ、シェイドは解き放たれて自由を得たいと思ったのだ。そのためには、新たな妃を迎えさせ、ジハードの気を他に向けさせる必要があった。
根底にあるその企みが、ジハードの目には手に取るようにわかったのだろう。
「俺がどれほど焦がれてきたかを、お前は未だに理解しないようだな。たった一ヶ月の蜜月など、この渇きを癒やすには到底足りるものか。それを身をもって知るがいい」
「……へい、か……!?」
腹部を守るように身を丸めていたシェイドの後孔に、何か丸い物が宛がわれた。
息を詰める暇も無く、薫り高い香油を纏わせた異物がツルリと体内に入ってくる。姿を消していた間に湯殿の小部屋から持ってきた道具に違いない。交合の直後で緩んでいる肉環にさえ異物感を覚えさせる太い道具が押し込まれ、括れの部分で引っかかって止まった。
「あっ……ん……!」
収まった途端、ゾクゾクとした寒気のような震えが背筋を走り抜けた。体内に埋められた丸い先端がシェイドの快楽の壺を押し上げている。燻る熱が、見る間に身を焼く炎へと変わっていった。
ジハードがその様子を見てとり、昏く嗤った。
「子種を入れた蜜壺に栓をして封じれば、懐妊の確率が高まると言うぞ。夜に俺が戻るまで栓はこのまま収めておけ。冷淡なお前にも少しは待つ辛さがわかるだろう」
「……っ、あ、そんな……っ……」
残酷な言葉に、シェイドは涙を浮かべて首を振った。
栓をしようがすまいが、懐妊などせぬことはわかりきっている。これはシェイドを苛むためだけの方便だ。
アリアと面談したことも、アリアを焚きつけて王妃の座を狙わせようとしたことも、ジハードはどちらも許すつもりはないのだろう。こんな物を入れられて、熱が治まるはずもない。夜になってこれを抜かれ、浅ましく飢えた内部に再び罰を下されるまで、シェイドは生殺しの熱に炙られ続ける。――――今でさえ、これほどまでに熱をもてあまして苦しんでいるというのに。
「ひ……お許しください、陛下……っ……夜まで、など……」
袖に縋り付いて許しを請うシェイドを、ジハードは愛しげに抱き寄せた。熱を煽るように、その敏感な肌に手を這わせる。
「日が沈むまではあっという間だ。――――俺がお前を待ち続けた月日を思えば、な」
「嫌ッ……ぁあッ!」
蹲る体を無理矢理に抱き上げて、ジハードは湯殿の外へと通じる扉を足で蹴り開けた。外にはフラウと数人の従者が控えていた。
フラウがシェイドの体をジハードの腕から引き取ると、二人の従者が柔らかい練り絹で作られた腰布を巻き付けた。体内に収めた栓が抜け出てこないようにするための縛めだ。
部屋に置いてきた星青玉の玉環が額に載せられた。
「衣服を改めたら昼食にしよう。騒動のせいですっかり遅くなってしまった」
午後からの政務に備えて、ジハードは濡れて汚れた服を着替えるために別の部屋へと消えていく。後に残されたシェイドの周りを、手巾を持った従者が取り囲んだ。
しっとり濡れた布は香油を落とした湯で絞ったらしく、馴染みの芳香が漂っている。媚薬入りの香油の匂いだ。
「……い、いや……いやだ、やめて……!」
身のうちを炎に炙られるシェイドは怯えたように後ずさったが、どんな抗いも拒絶も、ここでは意味を持たない。
シェイドは寝椅子のような台の上に押さえつけられた。過敏になった肌に布の香油が擦り込まれていく。擽ったさとともに襲い来る甘美な刺激に呻き、後孔に食まされた異物を締め付ければ、媚薬を纏った栓が弱い場所を押し上げてくる。
腰布の中に押し込められたシェイドの牡が張りつめ、窮屈さを訴えて涙を流した。
「やめて……いやだ、ぁあ!……あ――ッ!」
従者達の目の前で、淫らな北方人の肉体が陥落した。
「胸もお拭き致します」
感情をなくしたようなフラウの声が聞こえた。
従者達が抵抗する体を左右から押さえつけ、無防備になった胸をフラウが滴るほど濡れた絹布で覆った。布越しに突起を挟み、抓みあげ、布に滲み込んだ媚薬を皮膚の薄い敏感な部分に塗り込んでいく。両方の乳首が熱くなり、血を溜めて疼いた。
その哀れな肉の突起を、フラウの指が布越しにゆっくりと絞り上げる。
「あ……ぁあ――――ッ……やぁあああッ!」
拘束された体が寝椅子の上でびくびくと跳ね上がった。
腰布が内側からとろとろに濡れたが、それは終わりでも解放でもなかった。今からが本当の始まりなのだ。情の薄い奥侍従を、主人の帰還を待ち焦がれて自ら進んで足を開く、躾のいい玩具に変えるための、これが最初の教育だ。
「……許して……もう、許して……ぁあああっ! ひぃ――――ッ……」
狭い部屋に絶え入るような悲鳴が長く尾を引いたが、やがて最後には甘く掠れて消えていった――――。
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