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第24話 抱擁

 日中を中庭で過ごした二人は、日が暮れきるのさえ待ちかねて寝室に入った。  湯浴みをして汗を落とし、新しい夜着を身に着け、縺れるように寝台に入る。寝台の中で押し当てられた唇を、シェイドは自分から吸って口づけに応えた。  二度、三度と戯れるように吸い合った後、温かいジハードの舌が口内に滑り込んできた。濡れた肉厚のそれを迎え入れ、舌先を絡めて柔らかさと力強さを享受する。  舌と舌を絡め合わせていると体中が敏感になって、腹の底から熱がじわりと上がってきた。 「ん……」  思い切って両手を相手の首に回せば、背に回った腕がますます力強くシェイドの体を抱きしめた。 「……愛している、シェイド」  口づけの合間に囁かれる睦言が、胸の奥に甘苦しい疼きをもたらす。名を呼ばれるだけ、声を聞くだけでも、胸が締め付けられるように甘く疼く。  呪われたこの名を、優しい声で何度も呼んでくれる相手がいる。叱責するためでも、追い払うためでもない。温もりを伝えるためにこの名を呼んでもらえるのだ。しかも、相手はあれほど恐れた国王ジハードだった。  蔑まれ、忌み嫌われているとばかり思っていた国王が、誰からも与えられなかった誕生の祝福を与えてくれた。この国の守護神の末裔が、ここで生きていていいと、そう言ってくれたのだ。例え今この時だけのことだとしても、確かに生きることを許してもらえた瞬間があったことは、長く絶望の中で生きてきたシェイドに光を見せた。  そしてジハードが力強いその両腕で救おうとしているのは、シェイド一人だけではない。多くの北方人とその血を引く民、病や怪我の苦痛に喘ぐ者、飢えや貧困に嘆く人々も、ジハードは救い守ろうとしている。歴代の王のように、貴族や富裕層だけがウェルディリア人なのではなく、ジハードの前ではすべての人間が国民なのだ。  シェイドもまた、庇護すべき民の一人だとジハードは言った。それならばシェイドも、ジハードの民の一人として、あらん限りの忠誠を捧げたいと思った。    口づけが途切れた折に、目を開けて国王の顔を見つめると、ジハードははにかむような笑みを浮かべて見つめ返してきた。少年のような柔らかい表情を目にすると、胸を擽られるような不思議な心地がした。  今まで何度ジハードから愛を囁かれても、言葉は耳を素通りするだけで、意味を持っては届かなかった。北方人の己を家畜以上に思うはずがない。それ以前に人としてさえ生まれなかった己が、人間として扱われるはずがないという思いが胸の中には常にあった。  全ての記憶があるわけではないが、幼い頃のことは断片的に覚えている。  犬たちの間で体を丸め、餌として与えられた肉を口にしていたこと。人間たちに見つかって小屋から引きずり出され、口々に罵られながら棒で追われたこと。恐怖のあまり、壁の隅に身を縮めて唸り声を上げるしかできなかったこと。  人間の間で育てられることになり、衣服を与えられ、言葉を教えられ、文字を読めるようになった。後宮を出て見習い従者として王宮に入る頃には、見かけだけはただの北方人の子供のように見えただろう。  だが、じっと目を見られれば、裸で地べたを這い回っていたあの頃の己を知られてしまう。もしも知られれば、犬よりも卑しい化け物だと、棒で打たれ石を投げられる――――。  怯える気持ちは、今も消えない。正体を知られてはならないと、ずっと怖れ続けてきた。  けれど、神の血を引く国王は、全てを知って祝福をくれた。 「陛下……」  正面から向けて貰える笑みが勿体ないほど嬉しくて、この感謝の気持ちをどんなふうに伝えれば良いのか分からない。精悍な頬におずおずと敬慕の口づけを捧げると、ジハードの笑みがますます深くなった。 「愛している……お前を幸せにしたい」  迷いもなく頬に口づけを返されて、胸が温かくて涙が出そうになる。  もう何時死んでも悔いはない、一生分の幸せをいただいたのだと伝えたかったが、喉が詰まって声にならなかった。 「抱いても良いか……。俺に抱かれるのは、嫌ではないか……?」  言葉が出ない代わりに、シェイドはジハードの首に回した腕に力を込めた。  今までは罰を受けているのだと思っていたから、触れられるのが怖かった。快楽に溺れている最中も、首に掛かった処刑の縄を絞め上げられているように感じていた。  だが、そう思っていたのはシェイドだけで、ジハードの方は初めからただ愛でてくれていたのかもしれない。シェイドを一人の人間として認め、他のウェルディリア人の奥侍従たちと同じように、愛してくれていたのかもしれなかった。  ――――陛下に永遠の忠誠を誓います。  崇敬の思いを伝えたいのに言葉にならない。その代わり、シェイドは震える唇でジハードの唇に触れた。 「シェイド、お前を愛している……!」  啄むようだった口づけが、急に激しいものに変わった。  肉厚な舌が入り込み、舌を絡め取り、歯列をなぞる。背を抱いていた手が首筋を辿り、夜着の袷から胸元へと滑り込んできた。鎖骨を通った手は腋の柔らかさを確かめ、胸の肉を寄せるように包むと、緊張に尖った胸の粒を指先に捕らえた。 「あっ……」  下腹に痺れるような熱が走った。  思わず仰け反った首筋にジハードが吸い付き、軽く歯を立てながら跡をつける。興奮を押し隠すような息づかいに耳を擽られ、全身がますます敏感になっていく。 「気持ちいいか……」  硬くなって夜着を押し上げた屹立に、隆々としたものが押しつけられた。硬く逞しいジハードの雄の部分だ。沁み入るような快感にじわりと煽られて、シェイドは返事の代わりに自らのものをジハードのそれに擦りつけた。ジハードが、フッと好色そうな笑みを浮かべる。 「お前はここが好きだものな……」 「あんんっ……!」  両方の乳首がジハードの指に囚われた。胸から走った疼きが、下腹にジンジンと響く。軽く抓んで指先で弾き、捏ねるように潰されて、押し上げられた夜着の前が湿るのが分かった。  白い肌に所有の跡を残したジハードは、指で育てた胸の突起を口に含んで、健気に尖ったそれの硬さを確かめる。 「あ……あ、あ……っ」  温かく濡れた舌に擽られて、シェイドはもどかしいような声を上げた。片方を指で弄られながら、もう片方を吸われると腰の奥まで疼きが走る。夜着の前がますます濡れ、その奥にある窄まりがキュッと締まった。このまま気をやって、果ててしまいそうだった。 「へい、か……」  啜り泣きを漏らしながら、シェイドは昂ぶったものをジハードの腹に押しつけた。薄い夜着越しに、良く鍛えられた硬い肉体の感触が伝わる。  このまま終わりを迎えたい……激しい肉体の欲求がシェイドから慎みを失わせる。 「ここがトロトロに濡れているぞ」 「ひ……っ」  ジハードの体に押しつけて快楽を得ようとしていたものが、熱い掌に捕らえられた。  帯を解いて夜着を開かれ、肌と肌が合わさって体温を直に感じる。剣だこのあるゴツゴツとした掌が、蜜の多さを確かめるように先端を包み込んだ。 「先に一度逝くか……このままでは苦しいだろう」  口づけされ、胸を愛撫されただけだというのに、シェイドのそこは張りつめて涙を流していた。勃ちあがった付け根や、その下にある精の源も痛いほどに張っている。  ――――解放されたい……このまま温かい手の中で、悦楽に溺れたい。  だが、主人である国王を蔑ろにして己だけが快楽を極めるような恐れ多いことは、シェイド自身がもう許せなかった。以前のように諦念と義務感で閨に侍っているのではなく、今は自ら望んで国王に仕えているのだから。  顔から火が出る思いをしながら、シェイドは膝を立てて足を開いた。奥侍従がどうやって主の寵を強請るかは、もう知っている。 「……どうか、私の中にお情けをください……」  昨夜は深夜まで馬車の中で、その前の夜はたった一度ここに精を受けただけだった。北方人らしい貪欲な肉体は、精が欲しくて待ちきれないと訴えている。  太くて大きな国王の男をここに収め、淫獣のように悶え狂いたい。獣の本性を知られた今はもう、己の肉体の強欲さを隠す必要はなかった。 「駄目だ。まだ締まりがきつい」  だが窄まりの中に指を差し込んだジハードはシェイドの望みを退けた。  白桂宮と違ってこの離宮には出で湯もなければ、閨の準備を施すための様々な道具もない。シェイドは狭い湯桶の中で汗を流しただけで、体内を十分に清めることも、国王のために体を柔らかく拓いておくこともできなかった。  己の不調法のせいで、抱いてもらえないかもしれない。そう思うとますます欲が煽られる。 「裂けてもかまいませんから……」  初めての時のように傷ついても良いのだとシェイドは強請った。それでジハードが満足してくれるなら、あの苦痛をもう一度味わうことさえ厭いはしないのだと。  今日はどうしてもジハードと体を繋げたかった。全ての命は祝福されるべきものだと言った言葉が偽りでないなら、それを肌で実感させて欲しかった。最も尊い血を持つ国王にこの身を捧げ、祝福を受けたのだということを感じさせてほしかった。 「駄目だ。俺は、お前をもう二度と傷つけたくない」 「あ……!」  長い指がゆっくりと入ってきた。締め付けの具合を確かめるように、中で大きく指が動く。 「ああぁ……」  ブルブルブル……と震えて、シェイドはジハードの首にしがみついた。  指一本を動かされているだけだというのに、いても立ってもいられぬ快感が下腹に襲いかかってくる。指が内壁を拡げようと押すたびに、粗相する寸前のような切なさが生じて、屹立の先端から先走りが零れた。  いや、先走りというよりは、軽い絶頂に昇りつめているのだ。 「ぃ……やぁッ……」  腰を揺らして啜り泣くシェイドの中に、二本目の指が差し込まれた。待ちかねたように指を締め付け、腰を揺らして好い場所に擦りつけるのを止められない。指ではなく、もっと大きく猛々しいジハードの怒張でここを拓かれたい。獣を疎まぬと言うのなら、この浅ましさごとジハードのものにして欲しかった。 「陛下……どうか抱いてください、陛下ッ……ッ!」  甘い拷問から解放されたくて、シェイドは掠れた声で主たる国王に縋り付いた。  先を強請って自分を呼ぶシェイドの姿に、今さらながらの暗い嫉妬を覚えてジハードは眉を顰めた。  以前からずっと気になっていたことがある。閨の営みの最中にシェイドが己を敬称で呼ぶことに、何とも言えぬ不快感を感じていたのだ。  無論、奥侍従ならそれが当然だ。だが、ジハードはシェイドをただの奥侍従に収めておくつもりは毛頭ない。それに、違うと頭で分かっていても、『国王』に縋るシェイドの姿を見れば、父王の奥侍従であったのではないかというかつての苦い疑念が蘇ってきてしまう。 「シェイド、俺が欲しいか……?」  答えの分かりきった問いを、ジハードは投げかけた。 「欲しいです……陛下のお情けを、どうか私の中に賜りませ……!」  忘我の寸前で、喘ぎ混じりにシェイドが請う。  つい先日まではどれほど淫らな言葉を口にさせても、命じて言わせている感がぬぐえなかったというのに、心の重荷から解放されたせいか、今日のシェイドは快楽に素直だ。それだけに、己が敬称で呼ばれることに嫌悪が募った。 「なら、俺を名で呼んでくれ。敬称は要らん。俺をただの『ジハード』と、名で呼んで求めてくれ」  快楽の涙で潤んだ瞳が、言われた意味が理解できぬというように困惑してジハードを見上げた。  何度命じても目を逸らして視線を合わせようとしなかった青い瞳が、今は命じなくてもまっすぐに見つめ返してくる。海よりも鮮やかな蒼と、燭台の炎に煌めく金泥が宝石よりも美しい。胸が苦しくなるほど愛しく思うと同時に、凶暴な衝動にも襲われる。  ――――本音を言えば、肉を裂いてでも征服したいのだ。  愛しい愛しいと思いながらも、ジハードの腹の底にはこの美しい相手の全てを奪い、髪の一束までも己のものにしてしまいたい欲求が絶えずあった。白い体に歯形を付け、全身を所有の吸い跡で埋め尽くし、体内を穿ち続けて己の精液で満たしておきたい。他の誰にも見せることなく、檻の中に裸のまま閉じ込めて、四六時中好きな時に愛でていたかった。  だがそれをすれば、シェイドは二度とジハードを見ないだろう。  王太子時代にそうだったように、ジハードをまるで無慈悲な猛獣のように怖れ、目を合わせずに怯えて震え、心にもない阿りを紡ぐ人形になったに違いない。そんなものは望んでいなかった。 「名を呼んでくれ。俺の名は『ジハード』だ。お前は俺の伴侶なのだから、俺を名で呼ぶ義務がある」  ふるふる、とシェイドが首を横に振った。長年の間に染みついた身分の隔てが煩わしい。今やその隔ては、シェイドの心の中にしか存在しないというのに。  ジハードは、やっと手の届くところまで歩み寄ってきたシェイドを怯えさせないよう、優しい笑みを浮かべて頬に口づけた。珠のように大事に大事に慈しみたい思いと、肉を噛んで食らい付くしてしまいたい欲望が胸の中でせめぎ合っている。ジハードは体内に埋めた二本の指で絡みついてくる肉壺を掻き乱した。 「名を呼ばないなら、お前を抱かない」 「や、ぁあ、あッ……ッ」  元は『札付き』の男娼として底辺の辛酸を舐めた侍従は、性に未成熟だったシェイドの体を最高級の性具同様に仕立ててくれた。淫らな快楽を教え込まれた肉体は、もうそれなしではいられないほど熟している。ここまで高められて、シェイドに拒み続けられる道理はなかった。 「……ジ、ジハード様……ッ……」  縋るような声でシェイドが名を呼んだ。  ぞくりとするほどの高揚がジハードの胸を満たした。他の誰でもない。父でも他の男でもなく、シェイドは今『ジハード』を求めたのだ。  王族の尊い名を直接口に上らせるなど、王宮では鞭打ちを課される大罪だ。けれど、ジハードはそれでも満足できなかった。指を中で開いて、やっと解れてきた肉環を拡げる。期待にヒクつく入り口に、痛みを覚えるほど反り返った凶器を宛がって、焦らすように先端を押しつけた。 「敬称はなしだと言った。お前の夫の名を呼んでくれ、さぁ……!」  ジハードももう待つのは限界だ。呼んでも呼ばなくても、この肉を穿ち、中に精を吐き出したい。  けれど、シェイドの蒼い目が己を見上げてきた時、ジハードは最後の意地で安心させるような笑みを浮かべて見せた。涙を滲ませた蒼い目が、甘えるようにジハードを見つめて瞬きした。  情欲の波はシェイドを容赦なく追い詰める。感度のいい体は焦らされることに弱く、快楽は淫らな獣を拷問するより容易く陥落させた。 「……わたしに、どうか……おなさけを…………ジハード……」  消え入りそうなか細い声だった。それでも確かに、シェイドはジハードの名を呼んだ。  胸が締め付けられ、どうしようもないほど愛しさが募る。ジハードは物欲しげに開閉を繰り返す肉の中に、宛がった凶器を押し進めた。  まだ締め付けのきつい肉の壁が歓喜してジハードを包み込む。いきなり精を搾り取ろうとする貪欲な肉を振り切って、ジハードは重みをかけて最奥まで征服した。 「ああ、お前の中にたっぷりとくれてやる……!」 「ああぁぁあああ……ッ」  焦らされ続けた体の奥に、待ち望んだものがついに与えられた。  奥まで拓かれると同時に全身が震えを放つほどの快感に襲われて、シェイドは吠えるような声をあげて昇りつめた。腹の上を大量の蜜が滴っていく。頭の中で光が何度も弾けるような感覚があった。  気持ちいい……腰から下が蕩けて、ぐずぐずになってしまう……。  甘い疼きに支配されて、まるで下腹が自分のものではないかのようだ。勝手に痙攣し、腹の中のものを締め付ける。太く逞しいジハードの雄が身を割って深々と刺さっていた。その大きさを感じるだけで体が勝手に悦楽を拾い、深い悦びが頭を痺れさせる。  陶然と瞼を閉じたシェイドは、だが、直ぐに悲鳴を上げて目を見開いた。  大きな波のような絶頂がまだ余韻にもなり切らぬうちに、次の波が襲ってきたのだ。体内を穿つジハードが大きく動き始めた。 「や、ぁ……あ、ああぁッ!……ぃい、いぃぃいぃッ!」  あられもない嬌声が喉から迸った。  粗相したかと思うほど、蜜が勢いよく流れていく。ジハードの怒張が腹を抉って押し込まれるたび、稲妻のような喜悦が背筋を走り抜け、シェイドの理性を叩き壊していく。 「気持ちいいか、シェイド。俺に抱かれて、どんな気持ちだ」 「あ、ああ、あ、気持ちいい……ッ、幸せです…陛下…幸せ……」 「名前で呼べと、言ったろう…!」 「ゃ、ぁあああッ、アッ、アッ、アア――ッ」  弱い場所を立て続けに突き上げられた上に、痛いほど張りつめた乳首が摘み取られた。小さな肉の粒を抓んで引っ張られると、下腹がきゅんきゅんと痛んでまた蜜が零れる。  昇っても昇っても、頂を知らない官能の波は際限なく肥大していく。 「いく……ぅッ、……ジハード!……ッ、ジハー……ドッ……!」 「シェイド……ッ!」  ひときわ大きく体内を拓かれたと思った次の瞬間、ジハードが動きを止めて絞るように呻いた。体の奥に熱い塊が吐き出されているのがわかる。寵愛の証が注がれたのだ。  尊い情けの証が、穢れた体に染みわたっていく。与えられた場所から、穢れが払われていくような気がした。 「あぁ……ッ」  余韻を十分に味わう暇もなく、ジハードがまだ逞しいままの怒張を抜き去った。首に縋っていた腕から力が抜けると、そのまま強引に体を俯せに返された。  つれなく去っていった熱の気配に、もっと長く体を繋げていたかったとシェイドは願う。けれど臣下の身でそれを口にすることはできない。  せめて体内に残された種を零すまいと意識して後孔を締めた時、その口を割るように猛々しい凶器が再び入り込んできた。 「ヒ、ウッ……!」  放ったばかりだというのに少しも勢いを損なわぬものが、再び深々と最奥を突いてきた。 「……一度や二度で、収まるものか!……お前が嫌だと言うまで、今日は俺のものだ……!」 「ああああぁッ!」  水辺に落ちた木の葉のように、重なり合った体は寝台の上で激しく揺れた。後ろから抱きすくめられ、逃げ場なく圧し掛かられたシェイドは、腰の奥からせり上がってくる官能に悦びの声をあげる。  叫んでも叫んでも許されることはなく、己が己でなくなるほどの高みに追い上げられる。 「……ジ、ハード……ッ!」  奥深い場所をグリグリと抉られた瞬間、天地を失うほどの浮遊感がシェイドを鋭く叫ばせた。  欲されることが嬉しい。  求められ、情熱をぶつけられ、荒々しい息遣いを感じることが、これほど満たされて幸福なものになるとは、思いもしなかった。  それはすべて、生きることの意味を与えられたからだ。ジハードのものとなり、ジハードに仕えるために、自分は生まれてきたのだ。  熱い啜り泣きを漏らしながら、シェイドは手を伸ばしてジハードを求めた。後ろ手に伸びた掌を、激しく腰を打ち付けるジハードが上から抑え込むように掴んで握りしめる。もう二度と逃がしはしないと言いたげに、強く、強く――――。  逃げたいとは、もう思わなかった。 「……ジハード……私は、貴方のものです――……ッ!」  忘我の頂に飛び立つ寸前、シェイドはあらん限りの声で叫んだ。  

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