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距離感(赤坂 side)
「赤坂っ!」
俺を呼ぶ声がする。振り向くとそこにはとんでもない美少年・黒井がいた。なぜか満面の笑みを浮かべている。
「黒井」
「おはよう!」
「お、おはよう……」
「赤坂っ」
「ん、ん……?」
「じゃ、今日も1日頑張ろうね!」
と言い残し、黒井は席に戻っていった。ここ最近、黒井の距離が近い気がする。しかも毎回他愛もないどころかほぼ名前を呼ぶか挨拶するか程度の会話。いや会話にすらなってない。
一体どうしたんだろう?それ以外はいつも通りで、昼休みとかはどっかに行ってるみたいだし、他の生徒と話してる素振りもない。きっかけ……といえば、あの事件か相合傘か。でも謎すぎるんだよなぁ……。
と思いながら授業の準備をしていると、クラスの女子達がやって来た。
「ちょっと赤坂くん、来なさい」
「いきなり何だよ!?」
女子3人組はやって来るなり俺を呼び出そうとした。なんか悪いことしたか俺?
「話があるの」
「ここじゃ言えない話か?」
3人が無言になる。どうやら深刻そうな雰囲気なので、仕方なく廊下に行くことに。
「で、話って何だ?」
早速話を切り出すと、リーダーが腕を組みながら言った。
「黒井くんと、何があったの?」
「黒井?」
「最近、よく話すところを見たの。黒井くんすごく大人しいから、何があったのかなって」
何だその用件は。それは俺も聞きたいくらいなんだが。
「俺もわからん。修学旅行でちょっと喋る機会があったくらいかな」
「修学旅行!?何を話したの!?」
「言いなさいよっ!」
女達がでかい声で責めてくる。何なんだよこいつらは!てか、あの事件のこととか言える訳ないだろ!
「えぇ!?別に学校の話とか、部活やってるのかとか、しょうもない話しかしてねぇよ!」
「じゃあ何であんなに笑顔であんたのとこ来るのよ!?」
「知らねぇよ!こっちが聞きたいわっ!」
胸ぐらを掴む勢いでキレられる。どんだけ必死なんだよこいつら。てか……
「何でそんなに黒井のことが気になるんだよ?」
「そ、それは……」
やつらは顔を見合わせた後、とんでもない発言をした。
「黒井様はみんなのものよ!あんただけに笑顔を見せるなんて許せないわっ!」
「黒井様の仮面を外したのが、何でよりによってあんたなのよ!?」
「黒井様は恐れ多くて近づけない、高貴なお方なのよ!どうしてあなたに接近してるの!?」
「知るかよそんなこと!!」
んなことで呼び出すなよ!てか黒井様って、黒井は王子様か。どんだけ地位高いんだよ。全員鼻息が荒くなっている。
「黒井と話したいのか?」
俺は問うてみる。たぶんこいつらは、黒井のファンなんだと思う。あんだけ儚くてミステリアスで美しいのだから、女子の人気もめちゃくちゃあるだろう。
女子達は図星だったのか、急に声を小さくさせた。
「話したい……っていうか、謎めいた方だから、一体裏にどんな表情や想いを秘めているのだろうって思って……」
「遠くから眺めるだけでも十分お美しいのに、急に新たなお姿を解放していたから……」
いやいや、いつから黒井は帝みたいなポジションになったんだよ。めちゃくちゃ人気あるんだな、黒井って。確かに綺麗で線が細くて不思議な雰囲気があるから、女ならキャーキャー言ってもおかしくないか。
「俺も何でこうなったか知りたいよ。俺、特別なことしてないし」
それが本音だ。黒井の中で何が起こったのか。黒井は何か狙いがある?俺の隙を狙って殺そうとでもしてるのか……?
結局なぜ黒井が話しかけてくるのかは謎のままだった。
翌日。ホームルームが終わり休み時間になった途端、彼はやって来た。
「赤坂っ!おはよう!」
「うわっ!お、おはよう……」
ちょうど昨日話題になった男・黒井だ。絶対俺顔引きつってる……。そんなこと気にもしてないかのように、黒井は眩しい笑顔を見せている。
でも、「何で俺に話しかけるの?」とか言えないじゃん。別に話しかけられて嫌な訳じゃない。むしろ嬉しい。こんな楽しそうに来られると嫌な気もしないし。
とりあえず深く考えずに付き合おう。そう思っていたところに、昨日のあの3人組がまた登場した。
「おはよう!」
「え゛っ!?お、おはよう……?」
昨日とは違いすげぇ笑顔で挨拶をしてきた3人。いや昨日は挨拶もされてないけど。何この違い。つか何で来たんだよ!?恐れ多いんじゃないのか?とか色々考えていると、リーダーがいきなり黒井に質問した。
「あっ、あのっ!最近これとよく話すのをお見かけするのですが……何かあったのでしょうか……?」
「これって何だよ!?」
これ呼ばわりされる俺。しかも黒井に対しては敬語。酷くないか?
黒井の顔を伺ってみると、特段変わらず笑顔を振りまいている。女共は美しすぎて頭を抱えている。そして、形の整った唇を開いた。
「うん。実は修学旅行の時、一夜を共にしたんだ」
「おいっ!誤解を招く言い方するな!!」
なんちゅうこと言い出すんだこいつは!まるで「あんなこと」や「こんなこと」したみたいなことを……。
「い、一夜を共に……!?!?」
「つ、つまり、同衾《どうきん》……!?」
当然、この女達は衝撃を受けている。あと同衾って言い方やめろ。
「うん。えっ、間違ってないよね、赤坂?」
「いや違うそのいや違わねぇけど違う!間違ってないけど意味合いが違う!」
俺まで動揺する。そんなこと気にもせず黒井は無邪気に笑っている。
「いや違うんだ、俺の部屋の風呂がぶっ壊れて水浸しになって……。で、急遽黒井が部屋に泊めてくれて……」
「そうそう。それでベッドの上で楽しい時間を過ごしたんだよね」
「だからお前っ!その言い方は」
「えっ、違うの?赤坂は楽しくなかった?」
突然悲しそうに俺を見つめる黒井。んな守りたくなるような目で見るなよもう!
「いやっ、楽しかったよ!俺も!」
「よかったぁ。同じベッドだったから、距離も近くて話しやすかったよね!」
もう……頼むからやめてくれ……。いくら止めても黒井には届かない。無意識なのかなんなのか……。あまりにも嬉しそうに話すから、きっと邪な気持ちのない、天然なんだと思う。もうヤケクソだ。
「ね……これってもう、そういうことよね……?」
「うん……。たぶん、イッちゃったやつよね……」
「きっと……最後まで……」
「お前らマジで勘違いしてるぞ……」
こいつらも最早聞く耳を持たなかった。
授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、生徒達は慌てて席につき始める。黒井も「またね!」って元気に手を振って去っていった。
「赤坂くん……悪かったわね」
「もう……私達の負けよ」
「これからは黒井様との耽美な時を……私達は陰で見守るわ……」
「ごめんお前ら言ってることがめちゃくちゃだ……」
女子生徒らははぁはぁ言いながら自席に帰っていった。やばい事態になった気がする。
「これこれ、赤坂くん。授業始まったぞ?」
先生に注意されても、俺はしばらく立ち尽くしていた。
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