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黒井VS黄崎(赤坂 side)

「おい、やめろって2人とも.......」 俺の前で繰り広げられる、黒井と黄崎のいがみ合い。黄崎はともかく、黒井が怒っているなんて珍しい。なぜこうなったのか。それは数分前に遡る。 「赤坂っ!ノート貸せや!」 「命令すんな!」 いつものごとく宿題のノートを要求してくる黄崎。せっかくこの前勉強教えたのに、意味はあったのだろうか。 「聞いてくれよ赤坂。この前の英語のテスト、史上最高の点数が取れたんだ!」 「お、マジか。何点?」 「32点!」 「低すぎだろ!」 俺は危うく椅子から落ちそうになった。100点満点中32点て.......。今まで一体何点だったんだよ.......。少なくとも赤点であるに違いない。しかもドヤ顔すんな。 「バカにすんな!オレにとっては最高点なんだよ!」 「そ、それは.......おめでとう.......って言えばいいのか?」 「何だよその反応。お前も喜べ、お前が教えてくれたことによりオレの点数が上がったんだ。誇りに思え」 「誇れねぇよ!せめて50点取れ!」 「うるせぇ。てな訳で、ご褒美にノート見せろ」 「意味わかんねぇよ!」 とんでもない会話だが、黄崎はいきいきと輝いている。はぁ.......これ以上言っても埒が明かないので、しぶしぶノートを手渡した。 「黄崎くん。ノートなら僕が貸すよ?」 ふいに現れたのは、何と黒井。相変わらず儚すぎる美少年ぶりを発揮している。 「黒井.......」 思わず名前を呼ぶ。そう言えば黒井って、俺が誰かと話している時はやって来なかったよな。複数人だと話しにくいから2人がいいって言ってたけど.......今日はどうしたんだろう。 驚いているのは俺だけではないようで、黄崎は口を大きく開けている。 「は?何訳わかんねぇこと言ってんだ?」 おい黄崎。いきなり口悪すぎだろ。これがステータスなんだろうけどさ。黒井をびびらせるなよ。しかし、黒井も一体何があったんだ?いつもの笑顔がだんだん暗闇を帯びていく。 「今言ったとおりだよ。僕のノートを見せてあげるって言ってる。日本語わかる?」 「何だとてめぇ.......!?!?」 まっ、待て待て!!何言ってんだ黒井!?黄崎はともかく、黒井ってこんなキャラだっけ.......?頭がこんがらがってきた。 黄崎に睨まれても臆することなく、黒井は無敵の笑みを見せる。 「たぶん、ノートの答えは合ってると思うよ?僕は赤坂ほど頭はよくないけど、これくらいの問題なら簡単に解けるからね、普通は......」 「殺されたいのかてめぇ!!」 黒井の挑発に黄崎は敵意をむき出しにしている。やべぇ、黄崎がこんなに怒ってるとこ初めて見た。それに黒井がこんな態度取ってるのも初めてだ。 「あの、黒井、黄崎と何かあったのか?」 そう問うと、黒井はまた普段の愛らしい顔に戻った。 「えっと、その.......いつも黄崎くんにノートを見せてるから、大変そうだなって思って.......」 「ああ!?」 「赤坂が一生懸命やった宿題なのに.......。毎日貸すなんて赤坂が可哀想だから、代わりに僕がその役割を引き受けようって.......」 「誰がお前なんかに借りるかっ!」 ところどころで黄崎の怒鳴り声が入る。しかし黒井は全く動じず、潤んだ瞳で俺を見上げている。何なんだよこの状況は.......。 .......という流れで、現在目の前で謎のバトルが起きている。そりゃ何回宿題借りに来るんだよとか思ってたけど、そこまで気にしてなかった。まさか黒井がそんなこと気にかけていたなんて.......。というか、そのやり取りを見ていたことにもびっくりだった。 2人は未だにバチバチと火花を散らしている。接点がないように思えるけど、実は犬猿の仲?もうどうしたらいいのやら.......。 「まあまあ、2人とも落ち着けって」 「お前は黙ってろっ!」 宥めても黄崎に言い返された。何で今度は俺が怒られてるんだよ。もう意味がわからない。 「黒井。黙って聞いてりゃ偉そうなことばかり言いやがって!オレと赤坂のやり取りはスキンシップのひとつなんだよ!」 「ス、スキンシップ!?君と赤坂が!?」 「そうだよス・キ・ン・シ・ッ・プ。別に宿題なんか借りなくたってできるわ。男同士の朝の挨拶代わりだよ!こうやってオレと赤坂はコミュニケーションを取ってるんだよ!」 「ノートを借りることがスキンシップ?笑わせないでよ。ただの迷惑行為じゃん!」 「うるせぇんだよいちいち!」 まずい、ホントに修羅場になってきた。つか黙って聞いてりゃ、って黄崎も十分うるさいし。あと黒井も怖すぎるわ。こんな煽るやつだっけ?どうしよう、何とかしなきゃ.......。でも黄崎に黙れって言われてるし.......。黒井は可愛くて優しいやつなんだよ。黄崎は普段はあんなんだけど、実際はいいやつなんだよ。そう言いたかったけど2人に殺されそうなので止めといた。 言葉に迷っていると、黄崎がふん、と言い俺に近づいてきた。 「アホらしくなったから帰るわ」 どんどん近づく俺と黄崎。端正な顔立ちが目の前に来る。鼻と鼻がぶつかる寸前で、黄崎は甘く囁いた。 「明日も来るからな。覚悟しとけよ、赤坂」 言い終わると顔を離し、黄崎は自席へ戻っていった。何だったんだ、あれは.......。てか今日もノートを取られたし。明日も借りるのかよ、全然懲りてねぇな。呆然としていると、黒井に声をかけられた。 「赤坂、ごめんね。騒がしくしちゃって」 黒井はいつもの柔らかな笑顔で見つめている。さっきまでの妖しい顔は嘘だったみたいに。 「い、いや.......。それより黒井のあんな姿初めてだったよ。前から黄崎と喧嘩してるのか?」 「ううん。今日が初めての会話だったよ」 「マジで!?!?」 人と話すの苦手って言ってたけど、バリバリ話してたどころか喧嘩してたじゃねぇかよ!黒井は何者なんだ!? 「あっ、あのねっ!別に黄崎くんのことが嫌いとかそういうことじゃないんだ。ただ、もし赤坂が嫌がってるのなら.......僕が止めなきゃって思って.......」 嫌じゃなかったならごめんね、と黒井は水晶のような目で俺に言った。俺としては、借りに来る度に頭叩かれるし訳わからんこと言われるしうっせーなとは思っていたが、嫌でたまらないということはない。宿題写して間違ってても自己責任だしな。 どうやら黒井はそこを気にしていたらしい。そのために黄崎と初会話するなんて.......。いや、会話っつーか喧嘩だよな。 黄崎はツンツンして口も悪いけど、ホントは可愛い面もあるやつなんだよ。でもそれは黒井にはあえて黙っていた。もしかしたら、俺には言えない黄崎との確執があるのかもしれない。そこには触れない方がいいだろう。 俺は黒井の頭にぽんと手を置いた。 「そっか。ありがとうな、黒井。でも俺のことは心配しなくていいから大丈夫だよ」 「赤坂.......」 小柄な黒井が俺を見つめる。まるで子犬が「もっと撫でろ」と甘えているかのように。.......ったく、可愛いやつだ。俺のために喧嘩までして、こんな表情を見せて.......。みんながいる教室なのに、思わずよしよししたり思い切りわしゃわしゃしたくなる。やらないけどな。 「困ったことがあったらちゃんと言ってね、赤坂」 「わかった」 俺が頷くと、黒井はスーパースマイルを浮かべた。周りの女共が「黒井様の笑顔!」「沼!」「思ったより深い沼!」「身長差!」などと叫んでいたが、俺は聞こえないふりをしてぎこちなく笑い返した。

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